人はなぜ球体に入りたくなるのか? ~自然と調和したデザインとは~
球体ドームに入りたくなるのは人間の本能
ドームのような球体構造は皮膜そのものであり、支柱がなくても自立します。柱のある垂直水平構造(圧縮材のみ)は自然の中にはほとんど存在せず、自然物は圧縮と張力がつり合った構造になっています。球体構造もそのひとつで、巨大な球体を見ると人間はなぜか「この中に入ってみたい」という本能的な興味を抱きます。その中に入ると、包み込まれたような安心感を覚えます。また、年齢が若いほど、球体構造のデザインに直感的な面白さを感じるようです。感受性の豊かな子どもたちは、無意識に「自然の構造」を感得するのでしょう。
地球から自立するためのデザイン
20世紀のアメリカで、工業デザイナーのバックミンスター・フラーが「シナジェティクス」という概念を提唱しました。フラーは、人類が無自覚に自然を破壊する文明社会と、欲望のままの生活環境を続けていると、地球が蓄積してきた財産である石炭や石油など、化石燃料が枯渇(こかつ)してしまうと警告しました。そのため人類は地球の資源を消費する一方の生活から自立していかなければならない、と作品を通して訴えました。そのとき構造モデルとしてフラーが用いたのが、球体や多面体などの自然に存在するかたちでした。
デザインを通して提示する未来の姿
フラーが実現しようとしたデザインに「テンセグリティ構造」があります。ワイヤーとバーが互いに引っ張り合うことで張力を生み出すため、支柱がなくても自立します。これは自然の中にある構造です。これをデザインに取り入れ、実際に見たり触れたりしてもらうことによって、人々に未来の構造を直感させることができます。テンセグリティ構造を用いた作品は軽くて弾力があり、揺れにも強いため、いずれはさまざまな構造物、とりわけ地震で壊れないような建築物に応用できるでしょう。
作品を通して未来について考えるきっかけを提供したり、世の中に埋もれた本当に価値あるものを掘り起こして社会に伝えたりすることも、デザインの大切な役割なのです。
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先生情報 / 大学情報
武蔵野美術大学 造形学部 基礎デザイン学科 教授 板東 孝明 先生
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