これからの地域デザインと「クリエイティブイノベーション」
傷つきやすい素材はダメ?
国産杉は、扱いに手間がかかる上に柔らかくて傷つきやすいので、工業製品の素材としては敬遠されてきました。もしあなたがデザイナーなら、この素材をどのような製品に使いますか?
素材の短所を補うべく、できるだけ傷がつかないようにほかの強い素材と組み合わせたり、形状を工夫したりするというのも一つの手です。一方、あえて短所を前面に出すという発想もあります。例えば、傷をデザインの一部にしたり、使った痕跡によって見た目に味わいが出るようなデザインにすれば、傷自体が気にならなくなったり、自分の個性の反映としてユーザーに受け入れられやすくなったりします。通常であればクレームの原因になる傷も、デザイン次第では、むしろ愛着のもとになるのです。
デザインは価値を「翻訳する」もの
一見価値がわかりにくい物でも、デザインを加えることでその魅力を伝えられるようになります。わからない言葉をわかる言葉に翻訳するように、デザインは物の価値をわかりやすい形に「翻訳」する行為だと言えます。
日本には「ここには山以外何もない」と地元の人たちが嘆いている地域がたくさんあります。しかし、実はそうした地域にも、国産杉のように、地元の人々にあまり顧(かえり)みられていない資源がたくさん存在しています。そうした資源の価値をデザインによって「翻訳」すれば、地域の産業・経済の活性化にもつながります。
デザインにより地域の魅力に気づく
宮崎県日向(ひゅうが)市では、人々が地元の杉の魅力に気づいたことで、杉を使った物づくりが盛んになり、駅舎や電車などにも杉材がたくさん使われるようになりました。デザインはその「気づき」のきっかけとしても大きな役割を果たしています。そして実際に杉を使って作った物に触れれば、さらにその魅力に気づきます。
「デザイン」と「町おこし」は意外な組み合わせだと思うかもしれませんが、社会との関わりの中で「デザイン」ができることはまだまだたくさんあるのです。
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先生情報 / 大学情報
武蔵野美術大学 造形構想学部 クリエイティブイノベーション学科 教授 若杉 浩一 先生
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