「数理認識」を心理学的に解明し、数学教育に活用しよう!
方程式はなぜ中学校で習うのか?
分数や図形、統計、確率などを、どのようにとらえているか心理学的に解き明かそうとする「数理認識」という研究分野があります。例えば「X+3=5」という方程式についての子どもの数理認識があります。現在、日本の学習指導要領では、方程式は中学1年生で習います。しかしなぜ中1なのか、明確な科学的根拠はないのです。アメリカや旧ソ連下の諸外国などでは小学校で方程式を習いますが、理解度で問題視される事実はありません。
ひっくり返すだけで「式の質」が大きく変わる
例えば、「X-3=5」と「8-X=5」という数式を考える場合、実は両者にははっきりとした質の違いがあります。前者を解くとき、子どもは「引き算のある方程式を解くには、逆算して足し算しよう」と理解して「X=5+3」と思考します。それは、「X+3=5」が、足し算ですから逆に引き算して「X=5-3」とする解き方を前の時間に学んだからです。
ところがこの思考を「8-X=5」でも利用して、「X=8+5=13」とする子どもが必ずいます。一方で、小学校の低学年の子どもでも解くことができることも明らかになりました。ですから、子どもたちの誤認識の過程を明かせば、数学教育も変わるでしょう。
あえて間違えさせることで深い学びに
またほかのよくある誤認識の例に、「2メートルのテープの、2分の1メートルの所に印をつけてください」というのがあります。すると大人でも「2メートルの2分の1」と考え、1メートルの所に印をつけてしまうことがあるのです。しかし答えは「2分の1メートル=0.5メートル=50センチ」ですから線の4分の1の所に印をつけなくてはなりません。
教育手法として、こうした誤認識をクローズアップすると、かえって強烈なインパクトとなり、深い理解につながる可能性が高くなります。このように、数学が子どもたちの頭の中でどのように整理されていくかを解明する数理認識という分野を発展させることで、未来の数学教育がよりよいものになると期待されています。
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福山市立大学 教育学部 児童教育学科 准教授 太田 直樹 先生
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