歴史を立体的に把握する―満州研究における大衆文化の活用
満州進出と植民地化
日露戦争後、日本は中国の東北部と内モンゴルにまたがる「満州」と呼ばれる地域に進出します。満州には石炭や鉄などの資源が豊富にあります。日本は1931年に満州事変を起こし翌年には満州国を建国するなど植民地化を進め、その支配は第二次世界大戦の敗北まで続きました。満州は近代日本にとって重要かつ大きな影響力のあった土地で、満州をめぐって政治や外交、経済、文化、軍事など、あらゆる分野の方向性が決められました。
多様なメディアによるプロパガンダ
外地である満州への投資を人々に納得させるため、日本政府はさまざまなメディアを利用して、いかに大切な地域であるのかを国民に宣伝しました。そこに民間の企業や娯楽産業も相乗りし、新聞や雑誌、絵本や漫画や絵葉書など、多様な媒体で満州が宣伝されました。音も満州宣伝に活用され、満州事変の経緯をドラマ仕立てにしたものや、政治家や外交官の演説が吹き込まれたレコードなども発売されました。レコードは現在のテレビやYouTubeのように、五感に訴えかけるメディアだったのです。当時は満州への修学旅行もプロパガンダに用いられ、若い世代に現地を見せることで、満州経営の大切さを理解させました。さまざまな手段を通じて、日本では満州進出を下支えする世論が作られました。
大衆文化を歴史研究に活用
日本近代史の研究では、公文書や政治家の日記などを資料として使うことが主流です。しかしそれだけでなく、一般の人々が生活の中で見聞きした媒体―新聞や雑誌、小説、絵本、絵葉書、漫画、レコードなど―にも目を向けることで、より立体的に歴史の流れを把握することができます。
過去と現在は地続きであり、今なぜ世界がこうなっているのかを理解するためには、大衆文化の中で生み出されてきた多様な媒体をも「歴史資料」として捉え、多角的な視野で歴史像を描くことが重要です。歴史研究は現代社会を読み解くためにも重要な役割を果たしている学問だといえるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
皇學館大学 文学部 国史学科 准教授 長谷川 怜 先生
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