レーザとコンピュータで見えない病気を見つける
レーザ治療と光診断
レーザが発明されたその翌年には、眼科でレーザを用いた治療が始まりました。レーザを使えば、接触することなく組織を切り取ったり焼いたりすることができるため、衛生的で低侵襲(体へのダメージが少ない)な手術が可能になります。また、弱いレーザ光を人体に当ててその減衰や散乱を分析してみると、人体に関する多くの情報を引き出すことができます。例えば、血液の酸素飽和度、血流の速さ、癌の有無、血管にこびりついたプラークの量、血糖値など、光を当てるだけの新しい診断や検査方法が今も世界中で研究されています。
光ファイバ+連立方程式=世界一細い内視鏡?
レーザ光を体内に導くには細くて柔らかい光ファイバが必要です。これまで、光ファイバは点から点へ光を伝えることしかできませんでしたが、観察したい場所は1つの点ではなく広い面かもしれません。面を観察するには内視鏡が必要ですが、通常の内視鏡で観察できるのは表面の形状や色のみで、レーザを使った高度な計測には必ずしも使えないのです。そこで、「単一ファイバイメージング法」が開発されました。これは、その名の通り一本の光ファイバを用いて画像を取得する方法です。レーザ光が作る光の模様を記録し、計測値を加えた連立方程式をコンピュータで解くことで実現できます。光ファイバの先端はおおよそ100ミクロン。先端にはレンズも精密機械も不要なため、髪の毛ほどの細い内視鏡が実現できることになります。
コンピュータの力で光の限界を突破する
コンピュータとレーザのコラボレーションは更に多くの課題を解決するかもしれません。生体組織は光を強く散乱するので、1センチも深いところでがんの状態を観察するのは困難です。うつ病などの精神疾患の謎を解くためには脳の中で活動している神経細胞を直接見るための方法を早く見つけなければなりません。これらの解決には、レンズやセンサの性能向上と新しい物理現象の応用に加え、限られた測定データから多くの情報を引き出すコンピュータの力を活用する必要がありそうです。
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富山大学 工学部 知能情報工学コース 教授 片桐 崇史 先生
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