チョコレートの食感を決める魔法の脂
チョコレートのおいしさとは何か
チョコレートのおいしさとは何でしょう。もちろん、おいしさを判断する基準には、味やにおい、食感、色などさまざまな要素があります。その中で食感に注目してみると、口どけのよさと「スナップ性」という、パチンと割れる性質がおいしさの中身です。チョコレートは、ココアバター、カカオマス、砂糖などでできています。カカオの実を割ると種(カカオ豆)がありますが、それを天日乾燥して発酵させ、すりつぶして出てきた脂がココアバターです。チョコレートの物性を決めているのは、そのココアバターなのです。
口どけのよさとスナップ性の原因
ココアバターと一般のバターを比較してみると、温度を上げるとバターは徐々に柔らかくなりますが、ココアバターは30度近くまで固さを保持し、それを過ぎると急速に柔らかくなるという独特の性質を持っています。この温度は人間の口の中の温度と対応しています。これが口どけのよさとスナップ性の原因です。このような性質を示す脂は、自然界ではほかにありません。ただ、ココアバターの融点は結晶の形によって変化します。6種類の結晶の形があり、Ⅴ型にしないとちょうどよい33度の融点になりません。Ⅵ型は安定していますが融点が36度と高く、チョコレート特有の光沢が失われ、表面が白くなってしまいます。
バレンタインデーにチョコを上手に作るには
Ⅴ型の結晶にするには、溶けたチョコレートをいったん27度まで下げて、まずⅣ型の結晶にします。その後30度まで上げるとⅣ型の融点27度を超えるので溶けて液体になります。それをそのままにしておくと口どけのよいⅤ型になります。バレンタインデーで女の子がチョコを溶かして形を作る時に失敗するのは、この原理を知らないからです。問題なのは、チョコレートは時間がたつとⅥ型になってしまうことです。そうなると表面が白くなり味が落ちます。そのため、メーカーでは乳化剤を入れてⅥ型になるのを遅くするなど、おいしいスイーツを作る工夫をしているのです。
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先生情報 / 大学情報
広島大学 生物生産学部 生物生産学科 教授 上野 聡 先生
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