リンゴは赤くて丸い? 美術を通して見る世界と子どもの見ている世界
子どもの絵に心を動かされる理由
リンゴの絵を描くとき、赤い丸を描いて上の方に茶色の棒をちょこんと足せば、それだけでリンゴであることは伝わります。これは「リンゴは赤くて丸い」という意味(言葉)を私たちが共有しているからです。しかし、実際のリンゴはこんな単純な記号のようなものではありません。よく見ると一つひとつ異なる形状や凹凸があり、赤だけではなく実に多彩な色も見て取れるはずです。私たちが子どもの絵を見て心を動かされるのは、彼らがまだ「リンゴは赤くて丸い」という意味にとらわれておらず、自分なりに見えているリンゴを描くからです。
美術教育の意義
「私」と「世界(リンゴ)」の間には「リンゴは赤くて丸い」という意味があり、これを取り払うことでしか、本当の世界は見えてきません。多くの人が、学校の美術の授業で良い成績をとるには、作品をうまくつくることが大切であると考えます。しかし、学校や保育における美術(造形)教育の主眼はそこにはありません。意味に頼ることなく世界を見つめ、自分と世界とのつながりを実感すること、それによって人間形成を図っていくことにこそ、美術教育の意義があるのです。
アートベースド・リサーチ
人間は成長する過程でたくさんの意味(言葉)を獲得し、その意味を通して世界を知っていきます。それはとても大切なことで、世界の大半はそうした意味性によってできあがっています。しかし、この世界のすべての現象を、意味を通して知ることは不可能です。例えばコロナウイルスの感染拡大のように誰も予想できなかったことが起き、明日必ず太陽が昇ると誰も言い切れないのが、この世界のもう一つの側面であるからです。
近代的な科学の分野からは切り捨てられてきたこうした偶然性を含めて、世界を余すことなく描き出してきたのが美術です。こうした美術のもつ力を基盤にして、この世界を研究しようという研究方法を「アートベースド・リサーチ」といい、美術教育界においても大きな注目を集めています。
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先生情報 / 大学情報
武蔵野大学 教育学部 幼児教育学科 教授 生井 亮司 先生
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