講義No.10433 食物・栄養学

ビタミンには偽物がある? シュードビタミンの不思議を探る

ビタミンには偽物がある? シュードビタミンの不思議を探る

偽物のビタミンとは

魚や肉などの動物性たんぱく質に多く含まれるビタミンB12には、「シュード(偽物)」と呼ばれるタイプがあります。ビタミンは13種類ありますが、食品に含まれるビタミンでシュードタイプを持っているのはビタミンB12のみです。シュードは体内に取り込まれてもビタミンB12として機能しません。シュードを含む食品を食べても人間の体に害はないものの、ビタミンB12だと思って摂取していても、実際には栄養素が足りなくなる可能性があります。

シュードビタミンB12を含む食品の特徴

菜食主義や、無農薬の穀物や野菜を中心とした食事法「マクロビオティック」などを心がけている人は、主に肉や魚に含まれるビタミンB12が不足しがちになります。そのためビタミンB12を多く含むといわれていたスピルリナという藻類への注目が高まりました。しかしスピルリナが持つビタミンB12はシュードだと判明し、ビタミンB12の補助食品として効果的ではないとわかりました。また、藻類を餌としている巻き貝にもシュードが含まれています。一方でプランクトンを食べている二枚貝にはシュードが含まれないため、生物が摂取する餌がシュードの含有量を左右していると考えられています。また、シュードが作られる過程には微生物がかかわっていることが明らかになってきました。例えば乳酸菌を使ったチーズなどを分析すると、微量ですがシュードが含まれていることがわかっています。

食品成分表の課題

食品に含まれる栄養素の量は『食品成分表』を見ればわかりますが、ビタミンB12の項目はシュードを含んだ量が記載されています。例えばスイゼンジノリという食品はビタミンB12を非常に多く含んでいますが、詳しく分析すると大半がシュードです。しかしビタミンB12とシュードを区別することはとても困難です。分析するための機材は高価ですし、精密な分析ができる人材も育成しなければなりません。より汎用性が高く正確な測定方法を見つけることも、シュード研究における今後の課題といえます。

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東京農業大学 国際食料情報学部 国際食農科学科 准教授 谷岡 由梨 先生

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食品学、栄養科学

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メッセージ

大学は主体的に学べる場なので、自分の興味に関係なく、まずとことん取り組んでみてください。「百聞は一見にしかず」というように、実験実習などで目にした景色に刺激を受ける学生もたくさんいます。また、大学ではひとつのテーマについて考え続ける力や何度も挑戦する力が身につきます。
私は食品成分の特徴や機能性について研究していますが、国際食農科学科では、生産から流通、加工の一貫した流れを学ぶことができます。食品、栄養、植物生産、流通、経済、経営といったことに興味関心があれば、ぜひ一緒に勉強していきましょう。

先生への質問

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東京農業大学は、地球上に生きるすべての動物・植物・微生物と向き合い、それらの未知なる可能性、人間との新たな関係を追究していく大学です。食料、環境、健康、バイオマスエネルギーをキーワードに、創立以来の教育理念「実学主義」の下、実際に役立つ学問を社会のため、地球のため、人類のために還元できる人材を養成しています。世田谷、厚木、オホーツクの3キャンパスに6学部23学科を有します。