日本統治時代の建物を通して知る国同士のつながりと歴史
日本統治時代の建物
明治維新のあと日本は、台湾や朝鮮、旧満州などを統治しました。その間に、役所の庁舎をはじめ、鉄道の駅、銀行やホテル、官舎といったたくさんの建物が設計・建造されました。例えば今の台湾の「総統府」は、もともと日本統治時代の台湾総督府という建物でした。また韓国の旧ソウル駅も日本統治時代につくられ、現在は芸術文化交流施設として利用されています。老朽化によって取り壊されたものも多くありますが、中には意外な使われ方をしている建物もあります。
現在の使われ方
台湾の原宿と呼ばれる西門町にある「紅楼」もその一例です。日本統治時代につくられたレンガ造りの趣ある建物は、現在カフェやショップが入居する人気のレトロスポットになっています。また、紅楼は台湾におけるセクシャル・マイノリティの発信基地にもなっており、ジェンダーレストイレといって、さまざまな性別・性自認を持つ人が柔軟に使用できるトイレも設置されています。韓国東南部にある「九龍浦」は、日本統治時代にできた漁村ですが、現在、自治体によって日本式家屋や街並みが保存されており、韓国の若者が日本の着物を着て散策できる観光スポットにもなりました。
常識にとらわれない
台湾が歴史遺産として認定している1600の建物のうち、約半数が日本統治時代のものです。こうした建物は今では日本から独立した後に使われてきた歴史の方が長くなっており、台湾の文化やインフラの一部になっています。台湾は「親日」と語られることが多いですが、だからといって現地に残る建物を「日本のもの」として考えることは適切ではありません。旧満州や韓国においても同様で、「親日」「反日」といった単純な二元論からは表面的な理解しか得られません。「常識」にとらわれず、現地を実際訪れ、建物を見たり、そこを訪れる人の話を聞いたりすることで、国と国の関係(例えば、日本への感情)や文化のつながりがよりはっきりと見えてくるのです。
参考資料
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県立広島大学 地域基盤研究機構 教授 上水流 久彦 先生
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