科学が解き明かす「焼酎」の不思議
麹菌の働きを利用した蒸留酒
日本で昔から作られてきた食品の中には、独特の製造方法や風味などについて科学的に解明されていないものがありますが、南九州などを中心に約500年前から造られてきた焼酎もその一つです。焼酎は味噌やしょう油といった食品と同様、微生物である麹(こうじ)菌の発酵の働きを利用したお酒です。製造方法は麹と水、酵母菌で一次もろみを造って発酵させた後、さらにイモやソバなどの原材料を合わせて二次もろみを造ります。焼酎が清酒(日本酒)と異なるのは、この後の製造工程で蒸留を行うことです。蒸留とは液体を沸騰させて生じた蒸気を冷却し、再び液体として凝縮させる工程のことをいいます。
暖かい地域で造られてきた理由
古くから民衆の間で造られてきた焼酎ですが、科学的なアプローチで初めて解き明かされることもあります。例えば焼酎製造に使う黒麹菌や白麹菌は、清酒に使う黄麹菌と違ってクエン酸を多く生産し、それが発酵時の腐敗防止に役立っていることがわかりました。クエン酸は酸っぱいのですが、不揮発性のため蒸留工程で蒸発せず焼酎かすに残ります。クエン酸は雑菌の繁殖を防ぐ重要な役割を果たしながらも、蒸留で抽出されないため、お酒の味わいを邪魔することはありません。焼酎の製造方法は、暖かい地域で安全でおいしいお酒を造る上で、科学的にも理にかなっていたのです。
芋焼酎の甘い香りはどこから?
芋焼酎は独特の甘い香りに特徴がありますが、原材料のサツマイモに含まれる香りの成分はカプセルのようなものに閉じ込められて存在しています。研究の結果、この香り成分を放出させるのに、クエン酸の働きと蒸留の工程が関係していることもわかりました。
先人の知恵で造られてきた焼酎を原材料の成分、微生物の働き、製造方法などから科学的に検証していくことは、新しい技術開発にもつながります。ほかにも焼酎を通して地域社会について調べたり、世界の蒸留酒との違いや共通点を探ったりする研究も進められています。
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先生情報 / 大学情報
鹿児島大学 農学部 農学科 食品生命科学プログラム 焼酎製造学 准教授 吉崎 由美子 先生
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