民衆の声を生放送で届ける~台湾のテレビから学ぶメディアのあり方~
テレビの自主規制
現代の日本のテレビ番組は、台本の構成や編集の方法が事前に細かくチェックされており、一般市民へのインタビューも、「政治的な色合いが強い」「スポンサーや視聴者の反感を買いやすい」と判断されれば放送されません。これはニュース番組も同様で、批判を呼びそうな要素を事前に排除するという点では、報道の自由が保たれているとは言えません。このようにテレビ局が過度に政治に対して配慮し、視聴者の需要を重視する理由は、必ずしも政治家など外部からの統制が原因ではありません。テレビ局自らが、社会的責任を果たすためにぼやけた他者を相手に「他律的自主規制」を行っているのです。
台湾の討論番組
台湾のテレビも1980年代まで他律的自主規制の傾向が強くありました。長く戒厳令下にあり、民衆が権力者の顔色をうかがう権威的な社会でしたが、ケーブルテレビやラジオが政府の公認を得ずに活動したことが、民主化に大きな役割を果たしました。また民主化が実現した後は、視聴者と電話で討論する「コールイン討論番組」が爆発的人気を集めました。一般市民の政治的に踏み込んだ発言も生放送されましたが、権力者によって規制されることはなく、不適切な発言があった場合もその都度対応することで、番組を継続させてきました。
自由な言論空間
現在、民衆による自由な議論の場はテレビからインターネットに移ったと言われています。しかし自由に見えるオンライン空間も、今や多くの閉鎖的空間の集合体になりつつあり、異なる意見を排除し分断を生む温床になっています。一方、テレビは多くのチャンネルや番組に気軽にアクセスできるという点で、多様な情報に出会いやすく、自分と異なる意見に触れやすいメディアです。だからこそ、そこには人々の思いがリアルに反映されなければなりません。さまざまなリスクを冒しながらも自由な言論空間を守り、メディアとしての規範を作ってきた台湾のテレビの歴史からは、メディアの規範や社会的責任を考えるうえで多くのヒントを得ることができます。
参考資料
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大阪経済大学 情報社会学部 情報社会学科 准教授 林 怡蓉 先生
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