想像力と冷静な視線で! 絵画を読み解く美術史学とは
宗教画から読み解く社会
宗教にまつわる人物や事柄を描いた「宗教画」には、その当時の状況が反映され、同じ主題でも時代や場所によって表現が異なります。15世紀になると、ローマ教皇庁の権力に反発し、バチカンから離れたアルプス以北の国々を中心に宗教改革が活発化します。こうした地域で描かれた宗教画には、それまで見られなかったような表現が登場します。例えば、これまでのような威厳のある神の母ではなく、市井の人々に寄り添うような家庭的な聖母の姿は、後にルターらによって広められたプロテスタント思想を先取りしています。このように、絵画表現の変化を読み解くことは、社会情勢を考えることにつながるのです。
肖像画は雄弁に語る
ヨーロッパの名門のひとつであるハプスブルク家は、長きにわたり神聖ローマ帝国やスペインを統治しました。ルネサンス期以降の一族の肖像画をみると、顎や唇の形に共通する特徴があることがわかります。この特徴は、実は15世紀半ばにハプスブルク家と婚姻関係を結び、最終的には接収されるブルゴーニュ公国の支配者たちの歴代の肖像にも顕著にみられるのです。国としてはハプスブルク家の支配下に入ってしまうものの、ブルゴーニュ公の遺伝子的な血筋は脈々と受け継がれていったのかもしれません。すました顔の肖像画も、歴史を読み解く大事な資料のひとつなのです。
作品の持つ歴史を考える
芸術作品は完成したら終わりというわけではありません。目的を持って制作されたかどうかに関わらず、芸術家の手を離れてからも、所有者や設置場所の変更など、現在に至るまでに作品を取りまく環境は変化します。時に戦争によって掠奪されたり、所有者の意思で作品に変更が加えられることもあります。そういった全ての「今に至る道」も学問の対象となります。美術史は、「そこに何が描かれているのか」を考えるだけでなく、その作品自体が持つ歴史をも視野に入れて学ぶことが大切です。
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先生情報 / 大学情報
清泉女子大学 総合文化学部 ※2025年4月開設 総合文化学科(文化史領域) 教授 木川 弘美 先生
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