人はなぜ「これが正しい」と思うのか? 社会規範の心理学

社会規範からの逸脱行為
社会にはさまざまなルールやマナーが存在し、それらは守られることも破られることもあります。社会心理学では、人が「正しい」と考える基準とその行動の関係性を分析しています。大きな特徴として、人が規範を守るかどうかの判断は、周囲の人々の行動に大きく影響されるという点です。人は「みんながやっている」と認識すると、自分も同じ行動を取りやすくなります。しかし実際には、その認識自体が誤っていることも少なくありません。また、制裁や罰則の明示が行動抑制に効果的であることも明らかになっています。このような知見は、より効果的な社会ルールの設計に役立てられています。
ルール変化による認識の変化
現在わかっている現象として、法律による規制が先に来て、その後に人々の危険性認識が高まるというプロセスがあります。これは「危ないから禁止される」のではなく、「禁止されたから危ないと認識する」という、一般的な想定とは逆の流れです。私たちの「正しさ」の判断基準は、外部環境や社会制度によって左右されているのです。この理解は、社会的な規範や価値観がどのように形成されるかを考える上で重要な視点を提供しています。
AIの倫理判断と社会的受容
自動運転技術の発展により、新たな倫理的課題が生まれています。特に現在注目されているのは、AIによる判断の倫理的側面です。「歩行者が飛び出してきてブレーキが間に合わない場合、AIはハンドルを切るべきか否か(乗客と歩行者どちらの安全を優先すべきか)」という判断をどうプログラミングするかが議論されています。この問題は、哲学者マイケル・サンデルの「正義」の視点から考察できます。効率を重視する功利主義、絶対的な倫理を重視する義務論、自由な選択を重視する自由主義、それぞれの立場によって判断は異なります。「倫理的に正しい判断」と「社会的に受け入れられる判断」が一致するとは限らない中で、心理学・哲学・工学の境界領域からの考察が進められています。
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金城学院大学人間科学部 多元心理学科 教授北折 充隆 先生
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