ここが、光源氏が涙を流した場所? 江戸時代に生まれたゆかりの地

光源氏がここに生きていた?
映画やアニメなどの舞台になった場所を訪れることを「聖地巡礼」といいますが、平安時代に成立した『源氏物語』にも似たような例があります。『源氏物語』に描かれた特定の場面が、現実の場所と結び付けて創出されたのです。例えば、物語の主な舞台である京都には、光源氏の恋人の一人である夕顔のお墓が作られました。また、鞍馬寺の近くには光源氏が涙を流した場所として「涙の滝」と名付けられた場所があります。京都以外では、佐賀に玉鬘(かづら)が身を隠した洞窟という伝説が残る玉葛窟古墳があります。フィクションであるにもかかわらず、人々は史跡のように、現実の場所と結び付けて受け止めたのです。
江戸時代ならではの楽しみ方
これらは、記録からいずれも江戸時代に生まれた伝説と考えられます。それまで書物は上流階級や学者、歌人といった人々の間だけで読まれるものでしたが、江戸時代になり出版文化が発展したことで、庶民にも手が届くものになりました。『源氏物語』は長いうえに難解なところもありますが、ダイジェスト版としての梗概(こうがい)書も流通していたので、手軽に楽しむことができました。またこの時代になると旅が容易になり、「名所図会」などのガイドブックもたくさん出版されました。そこから「ゆかりの地」の情報も広まっていったのです。
物語はどう読まれたか
作者の手を離れると、物語は時に作者の意図を超えていろいろな読み方をされるものです。物語を楽しむ文化が多くの人々に広まった江戸時代だからこそ、「物語はあくまで虚構」と考えるのではなく、「登場人物が現実に生きていてほしい」という考えも生まれたのです。物語と現実の場所を結び付ける読まれ方がされたように、時代や読み手によって作品の評価や解釈は大きく変化します。文学の受容の歴史を見ると、文学をどう読むべきか、その可能性や想像力は多様であっていいということがわかるのです。
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福岡大学人文学部 日本語日本文学科 准教授須藤 圭 先生
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