トラウマの可能性や発達への影響を正しく知って支えるには

トラウマの可能性や発達への影響を正しく知って支えるには

発達への影響

トラウマは、自然災害や事故だけでなく、虐待や性暴力、いじめといった対人暴力でも生じます。教育心理学では、トラウマが子どもの発達にどのように影響し、どのような体験で回復するのかを研究しています。研究方法には、トラウマを経験した人がどれくらいいて、どんな影響があるかを把握する「実証研究」、個人の語りやカウンセリングの経過を分析する「事例研究」、学校や子どもの施設でさまざまな心理プログラムを実践する「実践研究」などがあります。

否認と理解

トラウマの実態をつかむことは簡単ではありません。心の傷について打ち明けてもらうには、十分な信頼関係を築く必要があります。また、いじめや交際相手からの暴力を経験し、深く傷ついた人ほど「あれはいじめではない」「愛情の裏返しにすぎない」と被害を認めない傾向があるので、暴力やその影響について説明する「心理教育」を行う必要があります。さらに、トラウマを受けた人は心身の不調をきたして日常生活を送ることが困難になりますが、周囲から「不安定な人」とか「問題行動」と非難されることがあり、ますます傷を深めてしまう場合が少なくありません。あるいは、「大丈夫だろう」と軽視されてしまうこともあります。

トラウマインフォームドケア

本人も周囲もその実態や影響をとらえにくいトラウマについて、ケアを提供するにはどうしたらよいでしょうか。従来の専門知識を持った医者が治療するという「医学モデル」に対して、近年普及しつつあるのが「トラウマインフォームドケア」です。「インフォームド」は「理解している・前提としている」という意味であり、専門家に限らず誰もがトラウマの基本的な情報を知り、どんな関わりや支援が有効なのかを理解する「公衆衛生」的なアプローチです。風邪の症状や治し方は誰でも知っているように、社会全体で心の傷を受けた人たちを適切に理解し、支えていくうえで、トラウマインフォームドケアの研究には非常に重要な役割が期待されています。

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大阪大学 人間科学部 教育学科目 教育心理学分野 教授 野坂 祐子 先生

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メッセージ

心理学を専門にしていると「他人の心がわかるんですか?」と聞かれることがありますが、心理学を探究するには、他人よりもまず自分についてわかることが重要です。そのため、ふだんの生活のなかで感じたこと、考えたことを大切にしながら、いろいろなことを経験してほしいと思います。
実際の体験に限りません。さまざまな人の話を聴いたり、本を読んだりしてください。幅広い生き方やものの見方に触れる経験が、自分に向き合い、自分の心について考える第一歩になるはずです。

先生への質問

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自由な学風と進取の精神が伝統である大阪大学は、学術研究でも生命科学をはじめ各分野で多くの研究者が世界を舞台に活躍、阪大の名を高めています。その理由は、モットーである「地域に生き世界に伸びる」を忠実に実践してきたからです。阪大の特色は、この理念に全てが集約されています。また、大阪大学は、常に発展し続ける大学です。新たな試みに果敢に挑戦し、異質なものを迎え入れ、脱皮を繰り返すみずみずしい息吹がキャンパスに満ち溢れています。