観光やリゾートだけではない、ミクロネシアの本当の姿とは
南洋の島々は「パラダイス」なのか
パラオやサイパン、グアムなどミクロネシアの島々は観光リゾートとして有名です。島々はパラダイスのようなイメージで宣伝され、日本からも多くの観光客が訪れます。また、少し前までは日本語を話せる年長者が多くいたため、親日家も多いなどと言われてきました。しかし、このようなイメージは一面的で、実際の姿とは違います。観光客に対して好意的である一方で、人々は太平洋戦争を含めて過去の歴史に対して複雑な思いを抱いています。
日本統治時代のミクロネシアの姿
第一次世界大戦後、日本は旧ドイツ領ミクロネシアを南洋群島として統治するようになりました。流暢な日本語を話す年長者が多いのは統治下で日本語教育が行われていたからです。また、統治政策の一環として、多くの日本人が移住し、現地の人々よりも多くなっていきました。学校や病院、役所などができ、農業や漁業なども発展しましたが、現地の人々は安価な労働者として搾取されるだけでした。ミクロネシアの人々は日本国籍を与えられず、日本人と同じ権利がなく、さまざまな差別を受けました。太平洋戦争の戦場となり甚大な被害を受けましたが、戦争当事国ではないミクロネシアの人々は、十分な補償を受けることもできていません。
伝統的生活からグローバルな世界へ
元々ミクロネシアには中央集権的な王は存在せず、小規模でゆるやかな政治的まとまりがありました。人々は、漁労と根栽農耕で暮らしていましたが、遠洋航海で結びつく島々もありました。しかし、欧米や日本に「統治される歴史」のなかで、伝統的生活は変わっていきました。島々の結びつきは分断され、大国の論理で支配に組み込まれました。1980年代以降、独立国家ができていきますが、国内の産業は乏しく、人々はアメリカ合衆国やその海外領土に活路を見いだし、移動していきます。いまさら伝統的な生活に戻ることはできません。大国の都合に翻弄されながらも、グローバルな世界で生きている人々の現実が、パラダイス・イメージの裏にあるのです。
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高知県立大学 文化学部 文化学科 准教授 飯髙 伸五 先生
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