文学作品から、人々を恐怖に陥れた感染症を見てみよう
物から受け取るイメージ
人が物に対して持っているイメージを、「心的イメージ」と言います。例えば空、と聞いて「青」や「鳥」を思い出すならば、あなたにとって空の心的イメージは青や鳥です。
文学作品には、病を題材にした作品が少なくありません。代表的なのは、ヨーロッパで幾度も流行したペスト(黒死病)です。最近では世界中で流行した新型コロナウイルスも、テーマに取り上げられつつあります。特に短期間で爆発的に広がる感染症は、昔から人々に恐れられてきました。ただし感染症自体は目に見えませんから、作品の中では病のイメージを呼び起こす「物」が、表象として登場しました。
イメージを具体的に表す病気表象
例えば、ペストを題材にした作品には、よくネズミが登場します。ネズミがペスト菌を運んでいるとされていたからです。ペストと言えば、かつて患者を診る医師が着けていた、鳥のくちばしのような形状の仮面も思い浮かぶでしょう。最近流行した新型コロナウイルスでは、とげの生えた丸いウイルスの顕微鏡の画像が連日テレビや新聞で報道されました。人はそういった物を見ただけで、「ペストだ」、「新型コロナウイルスだ」とイメージします。このように、病をイメージ化して表したものを「病気表象」と呼びます。特に長い期間、人々を苦しめた病ともなれば、人々の記憶に「この病といえばこれ」といった病気表象がしっかりと刻まれています。そういった視点で病が出てくる文学作品を読んでみると、その病を表現する病気表象があちこちに登場します。
時代や考え方が違えば表象も違う
病を扱った文学作品に登場する病気表象を一つずつ追っていくと、同じ病でも時代ごとに表象が違うことがあります。例えば昔の人は、疫病が流行するのは神の罰だと信じていたので宗教画に描かれるイメージを表象としている時代がありました。一方で、時代を超えて同じ表象であることもあります。文学作品の中で病を見ると、その奥にある時代や文化的な流れとのつながりが見えてくるのです。
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