アルツハイマー病の人の世界を理解する
私たちの意識は、言葉がつくりだしている
言葉はコミュニケーションや思考の道具ですが、その根源的な働きは連続している世界を区切り、私たちの意識をつくることだと考えられています。ところで初恋ってどのような感じですか。小学校2年生の時、○○さんに、△△くんに廊下で出会うと胸がドキドキしたり、顔が赤くなったり、夜ベッドの中で○○さん、△△くんのことを想うと涙がでてきたり。もし「初恋」や「恋」という言葉が存在しなければどうなりますか。ドキドキするのは心臓が悪いのかな、顔が赤いのは熱があるのかな、涙がでるのは目の病気かなとなります。もし「空気」という言葉がなければ、「空気」の存在を意識できません。「昨日」という言葉で時間の連続性を断ち切らなければ、「昨日」という存在をはっきりとは意識できません。我々はすでに言葉で区切られた世界に生れ落ちるので、言葉の根源的な働きに気づかないのです。
言葉の背後の概念が少しずつ変化していく
認知症の原因のひとつであるアルツハイマー病の人は、言葉の背後の概念が少しずつ変化し、それに伴って、言葉でつくられた世界も少しずつ変化していくと、考えられます。アルツハイマー病の人の介護は、とても難しいですね。それはアルツハイマー病の人と介護する人のコミュニケーションがうまくとれないことが原因だと思います。コミュニケーションを支えているのは、お互いの言葉の世界ですから、アルツハイマー病の人の世界を介護者がわからないことが、介護を難しくしているのだと思います。
もう一度、初恋って何
先ほど、初恋ってどのような感じと聞きました。胸がドキドキしたり、顔が赤くなったり、夜ベッドのなかで涙がでたり。初恋という言葉をすでに知り、自己意識をもっていたあなたは、その時気づいたのです。恋をしている自分に。恋っていいですよね、愛っていいですよね。でも人は悲しい、さみしい、苦しいといった言葉ももってしまったのです。その時から、人は悲しみとさみしさと苦しみを生きる存在になったのです。
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高知県立大学 社会福祉学部 社会福祉学科 教授 横井 輝夫 先生
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