マンガで感情を表現する「劇画」を開拓した辰巳ヨシヒロ
辰巳ヨシヒロを知っていますか?
辰巳ヨシヒロ(1935~2015)は漫画家で、終戦のときは小学生でした。手塚治虫の影響を受け、10代でマンガを描くようになりました。彼は、「劇画」という名称を初めて使ったことで知られています。劇画の定義についてはさまざまな議論がありますが、辰巳の作品は、さいとう・たかをの『ゴルゴ13』のようなスナイパーが出てくるハードボイルドな作品とは、イメージが違います。彼のマンガの主眼は主人公の感情表現です。文学的な内容で、文学や映画の影響を受けた作品もあります。
庶民の感情を表現する劇画
彼が主に活躍したのは貸本が中心だった1950年代からと、雑誌掲載を主とした1970年代以降です。登場する人物の多くは庶民で、どちらかと言えば社会の底辺層にいる人々でした。感情表現の中心にあるのは、「よるべのなさ」です。よりどころがない、つまり希望はあるのになかなか実現できない諦め、できないことによる迷いなど心の葛藤を描きました。
表現手法においても工夫があります。例えば、階段を上がるシーンでさまざまなアングルを使ってコマ割りすることで、ゆっくりとした時間の流れを表現しています。この逆もあります。これを「コマと時間のシンクロ」と呼び、ゆっくりとした時間の場合はセリフを最小限にすることで、読者に感情を想像させました。彼はこのような感情表現にあふれた劇画をめざしていたと考えられます。
海外で人気、日本では異彩を放つ存在
辰巳の作品は、貸本時代は労働者によく読まれたとも言われています。1970年代には雑誌に作品が多く掲載されましたが、少年が読者層でなかったため、単行本ではあまり売れず経済的には成功しませんでした。しかし、フランスを中心に海外での人気が高く、アングレーム国際漫画祭特別賞など数々の受賞歴があります。日本でも、つげ義春などが影響を受けています。日本の漫画史のなかで、異彩を放つ存在なのです。
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九州国際大学 現代ビジネス学部 国際社会学科 教授 松井 貴英 先生
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