〈都市地理学〉の視点でオーストラリア多文化社会を読む
日本のフィリピン人社会と地域社会の変化
日本には2020年時点で約28万人のフィリピン人が生活しています。そのうちの約7割が日本人男性との結婚などで定住する女性たちです。1990年代頃までは、エンターテイナーとして来日し、半年程度で帰国する人も多かったのですが、国際結婚を通じて長く滞在するフィリピン人女性が増加すると、住民として日本の地域社会と関わり合って暮らしていくこと、つまり多文化共生の必要性が生じました。名古屋市の都心部である栄周辺にも働くフィリピン人女性が多く暮らしていますが、2000年代に入ると、そこにフィリピン人を支援するボランティア団体が設立され、日本の地域社会とフィリピン人コミュニティとの間で多文化共生のまちづくりが始まりました。
オーストラリアのフィリピン人社会
一方、オーストラリアにもフィリピン人が多く暮らしています。オーストラリアは人手不足を補うために外国人労働者に頼ってきたため、英語を得意とするフィリピン人にとって、性別を問わず移住しやすい国の1つです。1980年代は日本と同じようにオーストラリア人男性との結婚を機に入国する女性が主でしたが、次第に家族を本国から呼び寄せたり、留学生が増えるにつれて男性の比率も高まりました。フィリピン人をはじめとする移民の多くは、シドニーやメルボルンのような大都市圏の特定地域に集住しており、日本とは比較にならないほど多文化社会の現実を生きています。
多文化社会の日豪比較
日本は2020年時点で在住外国人の比率が2%強にすぎず、いまだ日本人が圧倒的マジョリティの国です。そのため多文化共生を語るときは、マイノリティである外国人を日本社会に溶け込ませようというニュアンスが含まれがちです。しかし、例えば家賃が安い県営住宅などでは、すでに外国人住民が多く暮らし多文化社会が生まれています。文化の異なる人々が対等な立場で協力しあいながら1つの地域社会を作っていくうえで、多文化化が進むオーストラリアの研究は、日本の未来の試金石になるでしょう。
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愛知教育大学 教育学部 人文社会科学系 社会科教育講座 准教授 阿部 亮吾 先生
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