「無報酬の労働」と「ベーシックインカム」
給料のない労働
人は、「働く」という行為で他人の利益をかなえる活動をし、収入を得ます。一方で、家事や育児、介護、地域の活動などは、同じく他人の利益をかなえているにもかかわらず、報酬には結びつきません。これらのような無報酬の労働を「アンペイドワーク」と言います。これまでアンペイドワークの担い手は主に女性でした。「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業の考えが、社会通念となっていたからです。
不平等を是正する
1970年代に欧米を中心として女性解放運動が起きました。これは、性別に関わらず誰もが人間らしく生きられる社会を求める運動です。イギリスでの運動では、「ベーシックインカム」を要求する声が上がりました。ベーシックインカムとは、すべての人に一定の現金を定期的に支給し、最低限の所得を保障する仕組みです。女性たちの多くは性別役割分業の中での家事や育児、介護により、多くの男性より長時間働いているにもかかわらず、これらの労働に対する収入が得られないことや、職場や社会保障におけるジェンダーの不平等を是正する一つの手段としてベーシックインカムを主張したのです。また彼女たちは自分たちの生活を助け合う連帯経済の取り組みも行っていました。
コロナ禍から考えること
このところ、新型コロナウイルス感染症による各国の経済状況の悪化から、ベーシックインカムへの関心が高まりました。医療従事者、食品や薬品の販売員、配達員、保育や福祉従事者など、社会の生活を支えるための職に就くエッセンシャルワーカーたちは、感染リスクの中で働き続けていました。しかし、必ずしも良い待遇ではありませんし、事実上辞める自由を持たない場合もあります。他方で多くの人が職と所得を失っています。こうした状況を変えうるものとして、ベーシックインカムが注目されています。まだ完全に実施された国はなく、仕組みの是非の議論や実験が続いています。これらの問題は、働くとは何か、また、社会にとって必要不可欠なアンペイドワークの意味を問い直すきっかけとなるものです。
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同志社大学 経済学部 経済学科 教授 山森 亮 先生
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