現在も世界中にある「植民地的状況」とは?
社会を否定する植民地支配
植民地支配は、自国の利益のために、他の地域を強権的に支配する現象ですが、その際、その地域の「社会」が否認されるのが一般的です。私たちは、生活するうえで、これまで通りのやり方をすれば、そこそこ安心して生きていけると信じています。それは、いま生きている社会が、歴史的に形成された一定の合意にもとづいて、それなりに安定しているからです。しかし植民地支配では、外部から権力が入るなかで、合意が形成されている社会が否定され、それまで当たり前だったことが通用しなくなります。日本は、朝鮮を植民地支配し、創氏改名や徴兵制などを行いましたが、こうした政策によって、朝鮮で暮らす人びとがそれまで当たり前と思っていた生き方が出来なくなりました。こうした外部権力による社会の否認が植民地支配の本質と言えます。
世界中にある植民地的状況の国
第二次世界大戦後、形式的には植民地は次第になくなっていきます。しかし現在でも、植民地主義的状況の下に置かれている地域は世界中に数多くあります。今も続くウクライナ戦争の背景に、ロシアの植民地主義的な思惑を読み解くことは決して突飛な考えではありません。
朝鮮の植民地支配の始まりを1910年の韓国併合からと捉えるのが日本の歴史学では一般的でしたが、植民地支配とは何かという観点から、韓国併合前の伊藤博文による朝鮮統治をあらためて検証する研究が注目されています。
さまざまな研究分野と連携して歴史を理解する
世界の植民地主義的状況を解消するために、植民地研究は今後ますます重要となります。その際、支配する側の政策等だけでなく、社会の側が権力にどのように対応していくのかという点をあわせて検討することが必須です。歴史学では、資料を読み解いて過去を探っていく手法が主にとられますが、資料は権力者側で作られたものが多く、社会側の対応を検証するのには限界があります。そのため、社会学や人類学、心理学など、隣接分野の研究を踏まえながら多様な視点から歴史を捉えることが求められます。
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