旅は作家や小説をどう変えるのか? 旅行記を通して考える文学
旅行記研究
『トム・ソーヤーの冒険』で知られる19世紀アメリカの作家、マーク・トウェインは、小説だけでなく旅行記も書き残しています。アメリカ国内だけでなく、多くの国々を旅行したトウェインは、多様な文化や文明に触れる中で思考を巡らせ、自国のアメリカを見直す契機にもしました。文学研究では、こうした旅行記も重要な研究対象です。旅行の道中では作家と現実社会との間にさまざまな接点が生まれます。そこで作家が観察し、内省したことを旅行記の文面から丹念にひもといていくことで、文学作品の新たな解釈が生まれることもあるのです。
マーク・トウェインの率直な感想
あるとき、イタリアを訪れてレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』を鑑賞したトウェインは、絵の保存状態が悪いこともあり「価値が感じられない」といったことを旅行記に記します。建国から間もない当時のアメリカには、ヨーロッパの歴史や文化を持ち上げる風潮があり、トウェインの感想は無教養であるという批判を受けかねないものでした。しかし、あえて思ったことを書いたのは、時代の風潮に惑わされて作品そのものを評価しない人たちへの皮肉や、自国アメリカの文化をもっと誇るべきであるというメッセージが込められていると解釈できます。
多様な視点を獲得する
アフリカやインドも訪れたトウェインは、当時の列強国による植民地支配や人種差別を目の当たりにし、これを批判しています。民族や国籍にとらわれず、その人自体に向き合おうとする姿勢は『ハックルベリー・フィンの冒険』をはじめとする小説作品からも読み取ることができます。世界中を旅し、さまざまなものを見聞きする中で、トウェインは自分とは異なる多様なものの見方を獲得していきます。
これは文学の読み手である私たちにもあてはまります。作品を通してさまざまな立場の人の生き方を経験することで相対的な視点を持ち、それを自分の生き方や今の時代を考えることに生かすことこそ、文学を読み、研究する意義なのです。
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甲南大学 文学部 英語英米文学科 准教授 浜本 隆三 先生
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