ナノスケールの世界で起こる現象を「光の針」で観察する
顕微鏡で観察できる世界には限界がある
顕微鏡を使うと、肉眼では識別できない極小の世界を観察することができます。ただ、光学顕微鏡の場合、どんなに高性能なものでも、およそ1μm(マイクロメートル:1μm は1/1000mm)以下の物体は、観察することが難しくなります。光には波の性質があり、その波長は0.4~0.8μm程度であるため、光学顕微鏡で観察できる能力・分解能も、1μm程度にとどまってしまうのです。
「光の針」ナノ光プローブによる観察
脳細胞のメカニズムを調べたり、電子部品などに用いられる半導体の内部で起こっている微細な現象を調べたりするには、光学顕微鏡よりさらに小さな、10~100nm(ナノメートル:1nmは1/1000μm)程度の分解能を持つ観察手段が必要になります。その方法の一つとして注目されているのが、「ナノ光プローブ」という技術です。ナノ光プローブとは、針のように鋭く尖らせた光ファイバーを金属膜で覆って先端に光を通す小さな穴を設けたものや、金属の針の先端に光を集中させることによって作り出す「光の針」です。観察したい物体に極小の「光の針」を近づけると、細胞や半導体で起こっているナノスケールの現象を高い空間分解能で調べることが可能になります。観察対象を画像でとらえる光学顕微鏡とは異なるアプローチで、極小の世界を観察することができるのです。
光のナノテクノロジーがもたらす可能性
近年、電気・機械・医療など様々な分野がナノテクノロジーによって発展していますが、ナノ光プローブを用いた技術は「光のナノテクノロジー」と言えます。半導体中の電子の動きや発光現象をはじめ、従来の方法では観察することが難しかった分野での活用が、今後期待されています。
粒子の性質と波の性質を併せ持つ光。ナノ光プローブで観察するのは、その両方の性質が絶妙に顔を出してくるような難しい領域です。私たちがいまだ知らない極小の世界の現象が、ナノ光プローブの技術によって新たに発見されるかもしれません。
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山梨大学 工学部 先端材料理工学科 准教授 酒井 優 先生
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