米国の大衆文化によって再発見されたメキシコの伝統行事「死者の日」

米国の大衆文化によって再発見されたメキシコの伝統行事「死者の日」

架空のパレード

2015年に公開された映画「007スペクター」は、メキシコシティでの「死者の日」の華やかなパレードから始まります。骸骨の仮装をした人々が巨大な骸骨の山車(だし)と一緒に通りを練り歩くなか、主人公ジェームズ・ボンドが登場する印象的なシーンです。たしかにメキシコでは伝統的に11月1日と2日は死者の魂が現世を訪れる「死者の日」が祝われています。ところがハリウッド映画のようなパレードを開催したことはありませんでした。つまり、あのパレードは映画用に創作された架空の祭礼だったのです。

伝統的な死者の日

死者の日は日本のお盆と似た行事です。故人の魂が現世に戻ってくるとされるその日、マリーゴールドの花で墓を飾り、家の中には故人が好きだった食べ物や飲み物を供えた祭壇を用意します。日が暮れると人々は墓地に集い、墓の傍らで故人の魂と語らいながら時を過ごします。骸骨の飾りも死者の日の特徴です。古代メキシコでは先祖の骸骨を身近に置く風習があったり、19世紀には骸骨が政治風刺漫画に登場したり、骸骨は怖さよりも親しみを感じる存在でした。今では美しい骸骨婦人の仮装やカラフルにペイントされたドクロのグッズが死者の日を彩ります。

伝統のすばらしさを再発見

20世紀後半、米国の大衆文化としてハロウィンがメキシコ社会を席巻しました。若者はカボチャや魔女のグッズを買い求め、死者の日の前日に行われるハロウィンの方が盛り上がるようになっていたのです。そんな中、007の映画をきっかけとして観光客が死者の日パレードを期待するようになると、その翌年から自治体主催のパレードが本当に実施されるようになりました。さらに2017年に死者の日をモチーフとしたディズニー映画「リメンバー・ミー」が世界的にヒットすると、死者の日はより多くの人の注目を浴びることになりました。国外からのまなざしにより、国民が自国の伝統文化を誇るべき遺産として再発見することになったわけです。今では若者たちはこぞって骸骨に仮装し、死者の日を迎えています。

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専修大学 国際コミュニケーション学部 異文化コミュニケーション学科 准教授 小林 貴徳 先生

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