目に見えない地下水が、海の環境に大きな影響を与えている!?
海の環境と関わる「地下水」
川の水に含まれる窒素やリンは、海の環境や生態系にさまざまな影響を与えます。川に流入する産業・生活排水が原因となって沿岸部の微生物が異常増殖し、魚などが大量死する「赤潮」も、これまで幾度となく発生しました。そのため海洋学分野では、河川流域で行われる経済開発と水質の変化、それが海に与える影響などが数多く研究されてきました。ところが最近になって、海に大きな影響を与えている別の要因が注目されるようになりました。それは「地下水」です。
わからないながらも間違いのない環境関連性
地下水の量や水質、海に流出する経路などは地域ごとに大きく異なり、目に見える河川と違って研究はあまり行われてきませんでした。産業・生活用水としても地下水は多く利用されていますが、それが海の環境にどのような影響を与えているかといったことについても、ほとんどわかっていませんでした。
しかし調査・研究が進むにつれ、地下水が海の環境に大きな影響を与えている事実が次々と明らかになってきています。震災からの復興が進む宮城県・気仙沼湾では、海岸部を通る林道の地盤を補強する「矢板」という鋼板に穴を開け、地下水の流れを維持する取り組みなどにも研究結果が活かされ始めています。
地下水と海の関係は「新発見」の宝庫
京都府・宮津湾の「丹後とり貝」、山形県・鳥海山沿岸の「天然岩牡蠣」、大分県・別府湾の「城下かれい」など、地形的に地下水が豊富と思われる地域では、有名な特産品の水産物が産出され、地下水との関連性が指摘されています。地下水と海の生態系の関連性を研究することは、地下水の水質や量、海の環境を保全するだけでなく、地域経済の活性化にもつながるのです。
研究が進んでいない分野だけに新発見のチャンスも多く、福井県・小浜湾では、水深15mほどの海底から地下水が湧き出している箇所があることを、大学生が調査中に発見しています。今後、さまざまな発見が積み重なることで、地下水保全を通じた海の環境改善技術も開発されるでしょう。
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福井県立大学 海洋生物資源学部 海洋生物資源学科 教授 杉本 亮 先生
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