言葉は生きている~教科書だけでは学べない生の日本語とは~
教科書にない日本語
日本語を母語としない人にとって、日本語は時に難解に感じます。それは文法や語彙(ごい)の問題に限らず、教科書に書かれている日本語と、実際の日本社会の中で使われている日本語が違っているケースが多いからです。例えば日本語のあいさつは、朝は「おはよう」、昼は「こんにちは」、夜は「こんばんは」ですが、実際には親しい人に「こんにちは」と言うことはまれですし、お昼に会っても「おはよう」と言うケースもあります。また、「こちらが●●の『ほうに』なります」といったぼかした表現もよく聞かれますが、これらは教科書的な日本語とはいえません。
生のデータから規則性を見出す
言葉を研究対象とする言語学の中でも、社会の中で実際に使われている言葉を研究する分野が「社会言語学」です。研究対象は生の言語ですから、書物などに記されているものとは異なります。まずは実際の会話の様子を録音し、そのデータを文字に起こし、そこで語られている言葉はもちろん、「間」の長さや語尾の上がり下がり、うなずき、笑いといった非言語的な要素も正確に記録する必要があります。次に、そこで語られているのが日本語特有の表現なのか、また個人差には収まらない普遍的な言い方なのかなど、何らかの規則性を見出して、明らかにしていきます。
LINEでのやりとりも重要な研究対象
対面での会話以外にも、LINEなどのSNSや、オンラインミーティングアプリでの会話の中でも、日本語の談話の新しいルールが生まれており、研究も進んでいます。こうした、日々変わり続ける日本語を分析・研究する意義は、学術的な面にとどまりません。普段の何気ないやりとりが誤解を生んだり、初対面の相手との会話で沈黙が生まれたりしてしまう、といったことは多くの人が経験します。その原因である談話のさまざまなメカニズムを解き明かし、明確にすることは、個人レベルでのコミュニケーションの質を向上させることにもつながるのです。
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先生情報 / 大学情報
東北文教大学 人間科学部 人間関係学科 准教授 澤 恩嬉 先生
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