「もののあはれ」から「かわいい」につながる日本独自の美意識とは
外国で使われる「Kawaii」
日本語の「かわいい」は外国語でも翻訳されずに「Kawaii」として使われています。「かわいい」と似た英語にはcuteやprettyがありますが、それらに置き換えられないということから、「かわいい」は日本独自の美意識といえます。英語では主にbeautiful(美しい)、sublime(崇高な)、grace(優雅)という言葉を使って美を表現します。3つとも、相手の状態を表す言葉で、自分のあり方とは関係ありません。西洋の美とは相手の中に存在しているものなのです。一方、昔の日本では「もののあはれ」「わび」「さび」などの言葉で美しさを表現していました。「あはれなり」「わびしい」「寂しい」というのは自分の感情であり、相手や対象物を見たときの自分の感じ方を問題にしているのです。
日本独自の美意識
これは花に対する美意識にも垣間見ることができます。西洋の花の代表はバラで、1輪のバラを美しいと表現します。日本では花といえば桜で、古くから花見などで桜を楽しんできました。花見は桜の花単体を見て美を感じるというよりも、満開の桜の雰囲気に自分も参加することに美しさを感じます。これは茶道も同じです。茶道は、自ら茶席に参加することで感じ取れる美なのです。
「参加の美」は現代のカルチャーにも
このような日本独自の「参加の美」は現代のカルチャーにも通じています。例えば、日本発の文化であるコスプレは架空の世界の登場人物に似せて装うこと自体を楽しむものであり、これも参加の美です。ハリウッドスターのような全く違う世界に住む人ではなく、自らもアイドルとして、あるいは支える人として参加できる存在であると考えられます。「かわいい」と口に出すとき、「かーわいいー」のような言い回しと大きなリアクションが多く見られます。それは対象を「かわいい」と思うと同時に、そう表現する自分を含めた「かわいい」であり、そこには日本独自の美意識を見ることができるのです。
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先生情報 / 大学情報
明治大学 文学部 文学科 教授 伊藤 氏貴 先生
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