歌謡集『おもろさうし』で、古い沖縄の世界がわかる
祭祀で歌われていた歌謡を集めた『おもろさうし』
沖縄には、シーサーや空手、三線(さんしん)など独自の文化がありますが、これらは中国など大陸の影響を受けたものです。それに対して、古い琉球の歌謡集である『おもろさうし』は、沖縄の中で生まれました。「おもる」とは、思いを発声するという動詞で、「おもろ」は歌謡を意味します。16~17世紀の琉球国は、祭祀(さいし)で歌われていた各地の「おもろ」を集めて『おもろさうし』として編さんしました。「沖縄の万葉集」とも呼ばれています。
歌ったのは、女性の司祭「ノロ」
「おもろ」は複数の節で構成されていて、節は対句で成り立っています。例えば「しゅりもり(首里杜)/ぐすく//まだまもり(真玉杜)/ぐすく」とあります。「ぐすく」とは城のことで、首里城および城内の聖地を讃えた内容です。このように同じ内容を異なる表現で歌うのが基本パターンです。これは文学用語でパラレリズムと言い日本文学の中では非常に珍しい形式で、琉球文学の特徴の一つです。
日本の寺社の司祭は男性であることが多いですが、かつて「おもろ」を祭祀で歌ったのは、「ノロ」と呼ばれる女性の司祭で、祭祀儀礼自体もすべて女性が司り、男性はほとんどいませんでした。人々はノロを介して豊漁や豊作、長寿などを祈願していました。
琉球と日本の関係の軌跡も残っている
『おもろさうし』は日常語ではなかったため、編さんされた時点ですでに意味が忘れ去られた言葉が含まれていました。それらはすべて古い日本語、いわゆる日本古語です。琉球では、日本語が話されていましたが、島嶼地域であったため、独自の方言や文化が形成されました。例えば神の形態も、日本の古代信仰は「八百万(やおよろず)の神」のアニミズムですが、琉球は憑霊現象をともなうシャーマニズムです。『おもろさうし』は、かつての琉球・沖縄文化を、そして忘れ去られた日本古語を知る上でも大変重要な史料です。
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名桜大学 国際学部 国際文化学科 教授 照屋 理 先生
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