講義No.11150 教育

現代の教師の、あるべき姿とは?

現代の教師の、あるべき姿とは?

理想の教師像とは

日本の教師は、かつては聖職者と見られましたが、これは過去に国家によって創られた理想像です。しかしそれを教師が受け入れてきた歴史もあり、献身的教師像として定着して今に至ります。それが教師自身の首を絞め、多忙化を招いています。
理想の教師像とは本来、教育現場で、教師自身が紆余曲折を経て形作っていくものです。今の最大の問題は、試行錯誤の余裕がないことです。どんなに子どもと共に成長したくても、校務や評価のプレッシャーなどで、日々の充実感すら得ることが難しいのです。まずはそのような現場の声を聴き取り、政策に反映させる必要があります。

誇るべき教育遺産、綴方(作文)教育

日本の教育の歴史で、誇るべきものがあります。その一つが戦前昭和~戦後初期に盛んだった「生活綴方(つづりかた)」という作文教育です。教師は子どもに自分たちの身近な生活問題に関して文章を書かせ、それを通して社会認識=ものの見方・考え方を指導しました。社会の客観的認識(何かを「知る」)と切り離さないかたちで、自己の生き方(「どう生きるか」)を探求した、この実践は優れた遺産といえます。
戦前は、国家統制の中で学校でも社会問題を十分に扱うことができず、社会科という教科もありませんでした。しかし、貧困などの生活現実を前に、書くことを通して子どもたちは、地域や社会に目を向ける重要性を実感し、実際に行動にも移しました。戦前の教師は、そこに熱心に取り組んだのです。

自己表現できるように導く

ところが戦後の高度経済成長で世の中が変わり、教育も自己を表現する学びより、知識を詰め込み、受験戦争に勝つ方向へと転換しました。作文教育も、最近の教育改革では強調されなくなっています。それでも、子どもの表現(=意見表明)の場は大切です。生徒による校則の見直し運動などは、そうした表現への根源的欲求の現れかもしれません。
教育現場でいかに生徒の声を反映させることができるか。かつてそれが実践できたように、教師には生徒の声を聴き取る実践が求められます。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

帝京大学 教育学部 教育文化学科 准教授 佐藤 高樹 先生

帝京大学 教育学部 教育文化学科 准教授 佐藤 高樹 先生

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教育学、日本教育史

先生が目指すSDGs

メッセージ

ある歴史学者は学問の意味について、「生きるということを自覚的に行うことにある」と述べました。教育学では「自身の教育経験を振り返って教育への見方、考え方に自覚的になること」となるでしょう。
よく学生に「教師に必要なスキルとは?」と尋ねられます。しかし表面的なスキルより、なぜそのスキルを使うのか、どういう思いを持って使うのかをたえず自覚することのほうが大切です。そうするうちに、目の前で起こる問題をどうとらえ、判断するかという習慣が身につき、考えが深まっていきます。ものごとの本質を見る眼が大切です。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
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医療系・文系・理系と幅広い分野の10学部32学科を擁する総合大学です。文系学部を中心とした八王子キャンパスでは、約15,000人の学生が学んでいます。東京多摩丘陵の自然豊かな景観に位置し、キャンパスリニューアルにより新校舎棟「SORATIO SQUARE(ソラティオスクエア)」「帝京大学総合博物館」をはじめとした、施設・設備が整備され、教育指針である「実学」「国際性」「開放性」を柱に、自ら未来を切り拓く人材を育成しています。