『美女と野獣』が書かれた目的は? おとぎ話に潜むジェンダー
おとぎ話とジェンダー不平等
文学の世界には、出版当初は問題視されていなかったものの、社会の変化とともに差別的な表現だと評価が改められてきた作品があります。特に1970年代以降、ジェンダー不平等の観点から物語を語り直す試みが行われてきました。例えば『美女と野獣』です。18世紀後半にこのおとぎ話を童話として再構築したボーモン夫人は、イギリス中産階級の家庭教師をしていました。この頃は、中産階級の人々が地位を高めるために娘を貴族に嫁がせた事例は数多く存在します。ボーモン夫人はそんな娘たちに結婚への心構えを示そうとしたのです。
『美女と野獣』の教訓
『美女と野獣』は主人公のベルが父親のために意に添わぬ醜い野獣との結婚を迫られ、当初は嫌がっていたものの、やがて恋に落ち最後には野獣が王子に変身して幸せになる物語です。作中にはベルの姉たちも登場しますが、こちらは自ら決めた見目麗しい男性と結婚して悲惨な末路をたどってしまいます。こうした対比から、父親のために、たとえ相手が醜くとも結婚することが結局は身分の上昇と経済的安定という幸せにつながると説いたのです。
語り直しで価値観を問う
そして、1979年にイギリスの女性作家のアンジェラ・カーターは、ジェンダーに注目して『美女と野獣』を語り直しました。作中の野獣は人間ではなく、本物の動物です。ベルは初めこそ野獣を嫌っていますが、やがて野獣が人間よりもずっと尊敬できることに気づきます。また動物も女性も世の中で差別されてきたことに気づき、最後は自分が野獣に変身することを選びます。経済的な成功だけが女性の幸せではないのだと、カーターは伝えようとしました。
カーター自身も、女性であることを理由に社会で抑圧されてきた経験があります。しかし、日本で二年間暮らす中で、自分が白人として抑圧する側に立つ場面も、女性として抑圧される場面もあるのだと気づいたのです。その後、おとぎ話の語り直しや、既存の価値観を問い直すような作品作りに取り組んでいきました。
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先生情報 / 大学情報
国際基督教大学(ICU) 教養学部 アーツ・サイエンス学科 教授 生駒 夏美 先生
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