国勢調査のデータが政治的に創られる? 「人種」統計って何だろう?

国勢調査のデータが政治的に創られる? 「人種」統計って何だろう?

ラテンアメリカの国勢調査、「人種」は自己申告

日本の国勢調査に「人種」の項目はありませんが、近年ラテンアメリカの国勢調査では「人種」を問うものが増えてきています。例えば、「白人」「黒人」「先住民」「混血」といった選択肢が設けられています。これらの調査において、ある人が「白人」であるか「黒人」であるかなどを決めるのは回答者自身です(そもそも人種は生物学的・遺伝学的な根拠をもって客観的に特定できるものではありません)。

「人種」統計は流動的かつ政治的なもの

そのため、例えば黒人の地位向上をめざす政治団体の人々は、自分たちの存在感を大きく示すために、「人種を問われたら『黒人』と回答してください!」と人々に呼びかけるキャンペーンを展開していたりします。あるいは、いままで認知されていなかった新しい人種グループの人々が、自分たちのグループ名を国勢調査票の選択肢に追加するよう、政府に働きかけをしていたりもします。このように、「人種」統計は社会情勢によっても変化する流動的なものであり、しばしば政治的な性質をも帯びたデータなのです。

統計を鵜呑みにせず批判的に読み解くということ

高校の社会科の授業ではラテンアメリカの国々の「人種構成」を勉強して暗記したりする機会もあるかもしれません(「メキシコは混血が60%、先住民が30%、…」など)。しかし、それらは国勢調査で得られた公式統計ですらなく、どこかの機関が過去に発表していた推計に過ぎない場合も多いです。だから、他の機関が発表しているデータと見比べると数値が全然ちがっていたりもするのです。
大事なことは、ひとつの情報源から示される統計を鵜呑みにせず複数の情報源に触れてみること、そして異なる情報源から異なる情報が発せられていたらその原因を考えてみることです。これはフェイクニュースに騙されないためにも、また思い込みによって生じてしまう人と人との分断を回避するためにも欠かせない思考の技術です。そして、こういう技術を養うのが大学教育の重要な役割なのです。

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フェリス女学院大学 グローバル教養学部 文化表現学科  ヨーロッパ・アメリカ専攻  ※2025年4月開設 准教授 遠藤 健太 先生

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