産業動物獣医師に求められる役割とは
産業動物の病気を診断・予防するのも獣医師の仕事
「獣医師」と聞いてイメージされるのは、動物病院でペットの犬や猫を診察する職業でしょうか。もちろんそれも獣医師の仕事ですが、農家が飼っている牛や馬、豚などの産業動物の診断と治療を通じて、食肉や牛乳などの生産物の安全と安心を守ることも獣医師の仕事です。産業動物は農家が生活のために飼っている動物なので、生産性を阻害するような病気を未然に防ぐ診断と予防に重きが置かれています。
伝染病が発生したら全頭処分のリスク
家畜の病気でなにより恐ろしいのは感染力の強い伝染病です。万が一、口蹄疫(こうていえき)や豚熱、鳥インフルエンザなどが発生したら、農場内の動物すべてを殺処分しなければなりません。伝染病を他の農場に感染させないために法律で決められた処置です。動物を群れ単位で管理し、診断・診療するには長い経験が求められます。一頭一頭を個体診療しながら、群れ全体への影響を考慮し、どんな疾病に罹患(りかん)しているのか、治療できるのか、伝染力はどのくらいなのか、予後はどうなるのかといった判断を最前線で行います。農場は少ないコストで生産性を上げることが目的なので、その価値以上の治療費を投入することは難しいというシビアな現実があります。
法に則り、動物の命と向き合う
産業動物獣医師は動物の命を助ける仕事である一方、ときには命を奪う必要のある仕事です。例えば、軽い病気にかかって治療した家畜が後に重篤な伝染病に罹患してしまった場合、自分が一度助けた命だとしても、これ以上被害を広げないために殺処分しなければなりません。産業動物は人間の経済活動に組み込まれた動物です。だからといって命を粗末にしていいわけではありません。牛や豚が食肉として出荷されるまでは病気にならないよう、最大限の愛情と環境を用意して育てていきます。動物の生と死の問題に向き合いながら、農家の生活安定のための手助けをすることが獣医師に求められる役割です。そして、皆さんの食品の安全と安心を守る仕事でもあります。
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先生情報 / 大学情報
岩手大学 農学部 共同獣医学科 教授 一條 俊浩 先生
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