海の化学で自然の仕組みと謎を解き明かす
地球の環境問題にせまる物質循環研究
地球上のあらゆる物質は、大気や海、生物などの間を循環しています。この「物質循環」の研究で一番注目されているのは地球温暖化の主な原因である二酸化炭素の炭素循環で、ほかにも窒素循環、リン循環、硫黄循環などすべての元素が研究対象となっています。そのうちのひとつ「ヨウ素」は、オゾン層の破壊物質になり得ることから物質循環の仕組みを明らかにする研究が行われています。
ヨウ素の物質循環
「海や大気を循環するヨウ素」は、そのほとんどが海水中に無機ヨウ素として存在します。海洋植物に取り込まれた無機ヨウ素は、その一部が有機ヨウ素ガスやヨウ素分子になって大気中に放出されます。大気中のヨウ素は速やかに光分解されてヨウ素原子を放出し、そのヨウ素原子が大気中のオゾンを破壊することが注目されています。大気のヨウ素はいずれ雨となって地表に降り注ぎ、海に戻ります。
大気や海洋表層の有機ヨウ素は古くから調べられてきましたが、実は海底の堆積物にも有機ヨウ素のガスが含まれていることがわかりました。北海道の噴火湾では、毎年5~6月に有機ヨウ素化合物のヨードエタンが海底で急激に増えています。植物プランクトンの珪藻が腐るタイミングでヨードエタンが発生することは分かったのですが、その化学反応についてはまだわかっていません。
ヨードメタンとヨードエタン、ジヨードメタン
大気、海中、堆積物に含まれている有機ヨウ素ですが、主成分となる有機ヨウ素の種類はそれぞれ異なります。大気中では「ヨードメタン」が、海水中では「ヨードメタン」や「ジヨードメタン」が、堆積物では「ヨードエタン」が主な成分ですが、この違いについてもまだわかっていません。また、ジヨードメタンにも大きな謎があります。ジヨードメタンは光分解されやすい物質にもかかわらず、噴火湾では毎年5月以降に光が届く表層の海水で濃度が急増しているのです。堆積物のヨードエタンと表層海水のジヨードメタンの謎を解き、ヨウ素循環をより理解するために研究が続けられています。
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先生情報 / 大学情報
北海道大学 水産学部 海洋生物科学科 准教授 大木 淳之 先生
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