多民族国家ベトナムが目指す「公平」な教育資源分配
多民族国家ベトナム
近年、日本とベトナムの間には緊密な経済・外交関係が築かれ、日本の街中でベトナム人を見かけることも少なくありません。このベトナムが、実は多民族国家であることを知っていますか? ベトナム国民の約8割が「キン族」と呼ばれる多数派民族で、残りの53民族が「少数民族」に分類されいます。
教育支援制度
ベトナムの「少数民族」たちは、国家による優遇政策の対象となってきました。その一つが教育支援です。現在、ベトナムの大学進学率は約15%程度で、大卒者には将来の社会的達成が期待されてきました(最近は大卒の失業者が増加し、大卒資格が持つ相対的価値の低下も指摘されています)。この大学入試の際、少数民族には一律で数点程度の加点がなされます。入学試験の多くは一科目20点満点ですから、優遇加点があることで少数民族には有利な条件が与えられます。また、少数民族のみが入学できる特別学校(民族寄宿学校)も、各地に設立されています。遠隔地からでも進学しやすい環境のほか、学費も免除されており、大学進学を目指す少数民族の若者たちを後押ししています。
社会の変化
こうした少数民族への優遇政策について、ベトナム国内では、社会的弱者である彼らの暮らしを助けるためにはやむを得ない措置と考えられてきました。しかし今日のドイモイ政策(経済自由化政策)によって、国内に社会・経済的な格差が広がるなか、人々の不満の一端が、少数民族優遇政策への反対意見として現れ始めています。
これは少数民族優遇政策を所与のものとみなしてきたベトナム式の資源分配のあり方が、大きな見直しを迫られている、とみることもできるかもしれません。
地域研究や教育社会学の分野では、多民族社会ベトナムにおける資源分配政策が、社会の「公平性」をめぐる考え方やその実現プロセスに与える影響についての研究が行われています。優遇政策の受益者である少数民族たち自身の思いや考えをふまえたうえで、ベトナムが築いてきた独自の多民族共生、多文化主義のあり方を解き明かしていくのです。
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先生情報 / 大学情報
神田外語大学 外国語学部 アジア言語学科 ベトナム語専攻 准教授 伊藤 未帆 先生
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