振動は止めずにあえて揺らす! ナノの世界の「新・除振装置」

ナノレベルの操作に振動は大敵
私たちの身の回りでは、人の歩行や機械の作動といったさまざまな原因による振動が生じています。体に感じないような微かな振動でも、ナノレベルの操作を行う精密機器にとっては大問題です。そうした機器の一つが、微細な探針が試料から受ける原子間力によりナノレベルでの観察が可能な「原子間力顕微鏡(AFM)」です。AFMの使用には床からの振動を取り除く除振装置が欠かせません。既存の除振装置は空気ばねでテーブルごとAFMを浮かせて、床からの振動が伝わらないようにする仕組みです。重さが数十から数百キログラムあり、実験室に設置して使うことが前提です。そこで持ち運びができるようなコンパクトな除振装置の開発が進められています。
振動を与えて振動を打ち消す
開発中の小型の除振装置には、機械工学と電子工学を組み合わせたメカトロニクスの視点からまったく新しい機構が使われています。つまり、床から試料に伝わる振動と正反対の同じ振動を探針に与えて打ち消すという方法で、これにより相対的に振動をほぼゼロにすることに成功しました。試料の振動に合わせて探針を動かす「アクチュエータ」には、高校の物理でも学ぶフレミングの法則を使うこともあります。
ロボットに装着してナノスケールの加工も
この新しい小型の除振装置が実用化されれば、野外でのAFMの使用が可能になるほか、工場の製造ラインにも持ち込めます。AFMの探針をロボットの手先に装着すれば、工場の製品をナノスケールで計測したり、製品の表面をナノスケールで加工して殺菌力や防水性などの機能性を持たせたりすることも可能です。
もっとも、ロボットの手先にこのような超精密モーションシステムを作る場合、ロボットから探針へ伝わる振動も取り除く必要があります。これに関しては、ロボットと探針の間の可動部分がばねと同じ動きをしているため、同じ大きさの「負のばね定数」を持つばねを組み合わせて、振動を打ち消す方法が研究されています。
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