子どもと大人、言葉を覚えるのが早いのはどっち?
言葉を獲得するまで
「言語は子どもの方が早く習得する」とよく言われますが、実はそうとは言い切れません。一般的に赤ちゃんは1歳前後で意味のある言葉を発するようになります。見方を変えれば、人間は1年間毎日大人から言葉をかけられ続けて、ようやく一言を発することができるのです。赤ちゃんはその間に音の区別や、単語の切れ目とつながりなどを整理し、1歳ごろから単語と意味を結びつけられるようになります。大人とまともな会話ができるようになるのは4~5歳ごろです。このように、母語を獲得するまでには、膨大な手順と時間が必要なのです。
第二言語の習得
母語の獲得だけでなく、第二言語を習得する際にも同様のことがいえます。例えばスペインでは学校の英語教育の開始年齢を11歳から8歳に引き下げました。しかし、文法や語彙、発音やリスニングなど、どの要素をとっても、11歳から始めた方が8歳から始めるよりも早く習得できることが研究の結果から明らかになりました。もちろん、幼いころから外国語を学ぶことは、結果的にその言語に触れる時間が増えるという点で一定の効果が見込めます。一方で年齢が低いほど、自分が何を学ぼうとしているのか、何が不足しているのかが判断できず、学習効率が悪くなることも事実なのです。
言語教育のあり方
言語学の分野では、こうした子どもの言語獲得のプロセスについても研究されています。例えば家庭内での会話の記録から発話分析を行い、発達のどの段階でどのような言葉を発するのかを分析する、あるいは架空の単語(例えば「まかびる」)を子どもに教えて、活用の仕方(「まかびらない」「まかびれば」など)を記録して分析するといった研究手法があります。子どもが言語を獲得するまでのプロセスを明らかにする言語獲得の研究は、「子どもは言葉を覚えるのが早いもの」という漠然とした認識を見直し、母語や第二言語の教育の正しいあり方を考える上で、非常に重要な役割を担っているのです。
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津田塾大学 学芸学部 英語英文学科 教授 郷路 拓也 先生
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