科学としての文法研究と琉球諸語

科学としての文法研究と琉球諸語

文法は人間の心をのぞく窓

日本語の目的語には助詞「を」がつきますが(例:私は水【を】飲む)、文を可能形に変えると格助詞が「が」に変わります(例:私は水【が】飲める)。この規則を学校で習ったことのある人はほとんどいないでしょう。しかし日本語話者はみな無意識のうちにこれを使いこなしています。このように母語話者が無意識のうちに知っている言語に関する知識のことを言語学では文法と呼びます。言語学は文法という「窓」を通して人間の心や脳の中をのぞき、その仕組みを解明しようとする科学の一分野なのです。

沖縄語と係り結び

日本語にはかつて「係り結び」という文法がありました。文中に「ぞ・なむ」などの強調の助詞が入ると、文末がそれに応じて変化するという規則ですが、現代の日本語では失われています。しかし沖縄本島で話される沖縄語にはこの規則が残っています。沖縄語で「太郎が芋を食べた」は「太郎が んむ かだん」といい、文末が終止形の「ん」で終わります。この文の「芋」を強調すると、「んむ」に強調の助詞「どぅ」がつき、さらに文末が「る」に変化します(太郎が んむどぅ かだる)。係り結びは文のある要素が他の要素に変化をもたらす、という人間言語の重要な特性を反映しています。これは日本語ではなく沖縄語という「窓」を通してしか研究することができないのです。

失われゆく琉球諸語

沖縄語を含む琉球諸語は琉球列島で話される、日本語と同じルーツを持つ言語です。諸語とことばがつくように、奄美地方から与那国島まで、島や地域によって互いに通じないほど豊かな多様性を持っています。しかし琉球諸語は話者の高齢化によりその存続が危ぶまれている消滅危機言語です。言語が消滅すると、その言語を話す人たちの世界観や文化が無くなるだけでなく、人間の心をのぞく「窓」の一部も永遠に失われてしまいます。言語の消滅は人類にとって文化的にも科学的にも大きな損失なのです。そのため、生きた琉球諸語を記録、保存し、次の世代へ継承することが急務となっています。

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別府大学 文学部 国際言語・文化学科 准教授 金城 國夫 先生

別府大学文学部 国際言語・文化学科 准教授金城 國夫 先生

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言語学、生成文法、記述言語学

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メッセージ

言語は生活のあらゆる側面と関わっています。それだけに言語学が扱う範囲は広く、それぞれの興味に応じてさまざまな角度から探求することができます。高校では言語学という科目はありませんが、国語と英語という教科を通して言語についてすでに多くのことを学んでいます。好き嫌い、得意不得意はあると思いますが、この2つの科目は言語を学ぶという意味では共通していますので、まったく異なる科目ととらえずに自分なりに関連付けながら学びましょう。

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