心の病は心の中にはない!? 「人と人との間」を見てみよう
人によって見え方は違う
漫画『ミステリと言う勿れ』の第1話に「真実は人の数だけある」というセリフが出てきます。人が階段から落ちるという事象は同じでも、一方の当事者はいじめと受け止め、もう一方の当事者は遊んでいると言い、第三者はさらに違う印象を持つという場面です。事象をどうとらえるかは、立場や関係性によって大きく変わるという例です。
臨床心理学の「システムズアプローチ」では、個人の問題は、個人の中にあるのではなく、その人を取り巻く「人間関係というシステム」の中にあるという視点で解決策を探ります。立場や関係性によってものの見え方は違うので、どの方面からでもアプローチできると考える手法です。
「心の病」はどこにある?
「心の病」といえば、人の中に心があり、その心が障害を起こしていると思うでしょう。しかし、システムズアプローチでは、そもそも障害とは考えません。人と人との間に心のようなものがあり、病のようなものがあるととらえます。そして、その「人と人との間」の改善を図ります。
あなたにとって「嫌な人」がいるとします。嫌な人だと思うと、自然と冷たい対応をしているかもしれません。少し違う角度で見て、話し方を変えたら、関係性が変わるかもしれません。見方、関わり方、接し方を変えれば問題も問題ではなくなる可能性があるというわけです。研究では、両者の会話を分析し、間合いの取り方や話し方、口調などコミュニケーションを細かく見ます。関係の変化につながる糸口を探すのです。
「向こう側の人」にアプローチ
従来の臨床心理学では、直接本人に心の悩みを聞く「直接支援」という前提がありますが、システムズアプローチでは、本人に会わなくても、「向こう側の人」のカウンセリングで問題解決を図る「間接支援」が大きな特徴です。人間関係に注目するこの「間接支援」という領域の研究はまさにこれからです。悩んでいる人自身への負担が少ない間接支援が世の中に広がれば、新たに解決できる問題も増えるはずです。
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先生情報 / 大学情報
龍谷大学 心理学部 教授 赤津 玲子 先生
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