警察の統計では見えてこない「犯罪の原因」を探る

警察の統計では見えてこない「犯罪の原因」を探る

犯罪の実態や背景を解き明かす

犯罪の発生には、貧困や格差、孤立などのさまざまな社会問題が関連しています。無作為抽出による大規模なアンケート調査と統計データの分析によって、犯罪の実態と背景に迫る研究が行われています。
法務省が行っている「犯罪被害実態調査」では、犯罪に巻き込まれながらも警察に届けなかった、表面化していない犯罪の「暗数」を知ることができます。重要なのは、暗数が犯罪の種類によって異なる点です。DV(ドメスティック・バイオレンス)のような親しい人同士の間で起きた犯罪、特に性的な犯罪では、被害者の約9割が通報していません。身内で起こる犯罪は、警察の統計だけでは実態を把握しにくいことがわかります。

欧米との比較で見えてくる日本独自の問題

日本は世界的に見ると極めて犯罪の少ない国です。そのため犯罪の実体把握はあまり重視されてきませんでした。一方、欧米では犯罪被害に関する調査が半世紀以上前から行われています。そこで欧米と同様の調査を行うことで、欧米と共通の問題や日本独自の問題が見えてきます。
EUの調査を参考に行われた「女性の日常生活の安全に関する調査(2016)」 では、パートナーからの暴力を通報した数がゼロに近く、背景に「身内の恥」という意識などがあることがわかりました。加害者がパートナー以外だと日本でもEUでも通報は約13%で、EUでは相手がパートナーでも同程度を通報しています。また、この調査では幼児期の虐待経験と、成人以降の暴力被害の関連も見えてきました。

幼児期の虐待や社会格差と犯罪の関連

こうして浮き彫りになった犯罪の、被害者だけでなく加害者側の背景を解き明かそうとする調査も行われています。「国際自己申告非行調査(ISRD)」は世界的に行われている大規模な調査で、中学生を対象に万引やいじめなどの少年非行の経験を尋ねます。併せて虐待経験や世帯所得などを聞くことで、犯罪とのつながりが明らかになっていくことが期待されています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

龍谷大学 社会学部 総合社会学科 現代社会領域 ※2025年4月開設予定(設置届出中) 教授 津島 昌弘 先生

龍谷大学 社会学部 総合社会学科 現代社会領域 ※2025年4月開設予定(設置届出中) 教授 津島 昌弘 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

犯罪社会学、社会統計学、計量犯罪学

先生が目指すSDGs

メッセージ

社会学とはどんな学問なのか、わかりにくいかもしれません。社会学では近代以降の、文明がどんどん発達した複雑な社会を、さまざまな視点でとらえる複眼的思考で解き明かしていきます。私は大学で法律を学ぶなかで、犯罪を裁くことよりも「犯罪の原因」に関心を抱くようになり、社会学の道に進みました。一つの学問では対応できない複雑な問題に、いろいろな学問の要素を取り入れながらアプローチできるのも社会学のおもしろさです。環境問題やジェンダーの問題にも、社会学が強いと言われています。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

龍谷大学に関心を持ったあなたは

Less Me More We
あなただけの世界から、私たちを想う世界へ

あらゆる「壁」や「違い」を乗り越えるために、「まごころ」を持ち、「人間・社会・自然」について深く考える人を育む。それが、龍谷大学の教育のあり方です。自分自身を省み、人の痛みに感応して、他者を受け容れ理解する力を持つ。人類が直面するリアルな課題と真摯に向き合う。そして様々な学びを通じて本質を見極める目を養い、自らの可能性を広げていきます。