植物の成長をコントロールして農作物の収穫量をアップ!
食糧問題解決をめざして
現在、世界の約7億人が飢えに苦しんでおり、また世界人口は2050年には100億人近くに達するといわれているため、食糧問題の解決が急がれています。植物学の分野では、干ばつや塩害などのストレスや病気に強い農作物の遺伝子を探索するといった、食糧問題を解決するための研究が進められています。植物ホルモンであるオーキシンの研究もその一つです。オーキシンは植物の成長のあらゆる場面ではたらくため、人為的に内生量をコントロールすることができれば、環境に左右されずに農作物を栽培することが可能となります。
化学的アプローチでオーキシンのはたらきを調べる
生物学の研究において、生体内にある特定の物質のはたらきを調べるには、遺伝子組換え技術でその物質ができないような変異体や過剰に発現させた過剰発現体を作って、普通の個体と比較するのが一般的です。しかし、この方法は遺伝子組換え体の作出が難しい作物には使えず、また、この方法では「特定の時期の特定の器官」におけるオーキシンのはたらきを解明できません。
そこで考えられたのが、阻害剤を使った化学的なアプローチです。オーキシンは酵素のはたらきによって合成されるので、酵素のはたらきを阻害する化合物を植物に与えることで、一時的にオーキシンの合成を止めることができます。その結果、植物に現れる反応から、オーキシンのはたらきを推測します。
植物の成長をコントロールする薬剤開発
阻害剤として使う化合物の構造を変えると、植物の反応にも変化が現れます。化合物の構造のわずかな違いで、根や葉の形がまったく変わってしまうといった反応が起きるので、植物の成長をうまくコントロールできるような化合物の探索が進められています。
植物の成長調節剤を開発できれば収穫量の増加につながり、日本の農業の活性化、さらには世界の食糧問題解決にも貢献することができます。スプレーでひと吹きすれば数週間後に花が咲く、そんな薬剤の実現もそう遠くはないかもしれません。
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先生情報 / 大学情報
神奈川大学 化学生命学部 生命機能学科 准教授 中川 理絵 先生
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