術後せん妄はなぜ起こる? 基礎薬学的手法で解明へ
臨床薬学的手法に統計分析を導入
臨床の現場では、主病を治療するために最適な治療法が選択されていますが、投与される薬の影響など、主病以外の要因によって問題が発生することがあります。例えば臓器移植を受けた患者は、術後せん妄(もう)と呼ばれる突発的な脳機能障害があります。これに対し、患者情報や投薬歴などのデータを活用し、薬剤師がロジスティック回帰分析という事象の発生率を分析する統計手法でリスクファクター(危険因子)を抽出したところ、肺移植患者より肝移植患者の方が、術後せん妄が起きやすいことがわかりました。
基礎薬学的手法で薬の作用を調べる
次のステップとして行うのが、基礎薬学的アプローチです。臓器移植患者には、術前に移植の拒否反応を抑える「免疫抑制剤」を投与します。この薬は本来、脳には移行しません。そこで、肝機能に障害のある患者の脳血管にはほんの小さな穴ができ、そこから薬が脳に届くことによる副作用ではないか、との仮説を立て、病態モデル動物に免疫抑制剤を投与し、薬物の作用を検証します。その結果を臨床現場にフィードバックし対策案を検討してもらうのです。薬剤師によるエビデンスの構築が進み、術後せん妄に対応する専門チームを発足させて活動している病院もあります。
ドラッグリポジショニングへの期待
がん患者がうつ病のような精神疾患を併発すると、治療への意欲が減退し、主病であるがんそのものの治療が難しくなる場合があります。臨床現場におけるこうした課題の解決策として注目されているのがドラッグリポジショニングです。薬には目的以外の作用があり、それが副作用となる一方で、効果的に作用する場合もあります。アメリカではストレス緩和を目的に、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した患者に市販の鎮痛剤を投与する実例も報告されており、国内でも病態モデル動物による実験で良好な結果が得られています。新薬開発に比べ時間もコストも抑えられ、迅速に患者に提供できるこの取り組みに、大きな期待が寄せられています。
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先生情報 / 大学情報
山陽小野田市立山口東京理科大学 薬学部 薬学科 准教授 相良 英憲 先生
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