「分子のはさみ」で品種改良の技術が飛躍! 広がる作物の可能性

「分子のはさみ」で品種改良の技術が飛躍! 広がる作物の可能性

品種改良革命

大昔、人は利用しやすい性質を持った植物を野生から選んで栽培化しました。自然において見出された色や形などに違いがある植物には、それらの性質を決める遺伝子に自然の中で違い(変異)が起きていました。現在では、優れた性質になる遺伝子をもつ個体同士を交配し、両方の性質を持つ新しい作物品種が作られることが多いのですが、手間と時間がかかります。一方、最新の「分子育種」手法として、バイオテクノロジーで遺伝子を狙って変異させる「ゲノム編集」が登場しました。ゲノム編集のカギとなっているのが「クリスパー・キャス9」という「分子のはさみ」です。これにより、狙った遺伝子を切ることをきっかけとして効率的に変異を起こすことができるようになりました。「クリスパー・キャス9」の利用により、分子育種による品種改良は飛躍的に進歩したのです。

ゲノム編集による作物の改良例

調理におなじみのキャノーラ油は、セイヨウナタネの種子から取れる油です。セイヨウナタネの油には酸化しにくく健康によいとされるオレイン酸が含まれていますが、オレイン酸をリノール酸に変換する酵素の働きのため、含有率は約60%にとどまっています。そこで、オレイン酸の量を増やすため、その酵素を作る遺伝子を「分子のはさみ」で狙って変異させました。すると、オレイン酸をリノール酸に変換する働きが弱くなり、オレイン酸の量が約8%増加したセイヨウナタネを作ることができました。

ゲノム編集で広がる品種改良の可能性

ガンマ線などでDNA上の遺伝子に傷をつける従来の変異育種では、どの遺伝子に変異が入るか制御できず、1万株くらいの植物を調べなければ望むものが得られませんでした。一方、「分子のはさみ」を利用すれば約10~20株くらいを調べれば望む植物を得られるようになり、いかに効率的かがわかります。ゲノム編集を使うことで、環境変化に適応しやすい作物や、健康機能性を持つ作物など、今ある良い品種に更なる性質を付与させる可能性が広がると期待されています。

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先生情報 / 大学情報

玉川大学 農学部 生産農学科 准教授 奥崎 文子 先生

玉川大学 農学部 生産農学科 准教授 奥崎 文子 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

遺伝育種学、分子生物学

先生が目指すSDGs

メッセージ

シャーロック・ホームズがワトソン博士に言った有名なセリフに、「君はただ眼で見ているだけで観察をしていない。見るのと観察するのとでは大違いなんだ」というものがあります。研究をするときにも、ただ漠然と見るのではなく、探偵のようによく観察して違いを見つけ、何がその違いの原因か考えることがとても大切です。
道端の植物など、なんでもいいので、普段から身近なものを観察するよう心がけてみてください。よく見て観察して、何か違いを見つけられたら、さらにじっくりと調べる粘り強さも持てるとよいと思います。

先生への質問

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―8学部17学科がワンキャンパスに集まる総合大学!―「全人教育」の理念のもと“「人」を育てる”ことをめざす玉川大学は、8学部17学科の学生がワンキャンパスで学んでいます。61万㎡の広大な敷地には、各学科での深い学びに加え、学部学科の垣根を越えた学びの環境を用意。学外での体験型学修や、「使える英語力」を身につける「ELFプログラム」などの独自プログラムも実施しています。また、2020年4月に利用開始した「STREAM Hall 2019」では、農・工・芸術学部が学部の枠を越えた学びを展開します。