「推し」はどこから来たのか 若者の消費文化の変遷について考える

「推し」はどこから来たのか 若者の消費文化の変遷について考える

若者の消費文化

K-POPアイドルやアニメ、ドラマなど、誰か・何かに熱中したり応援したりすることを「推し」と表現します。「推し」は現代の若者の消費文化を象徴する言葉ですが、1980年代には「ナウい」、1990年代には「トレンディ」という言葉がよく使われました。「ナウい」「トレンディ」に共通するのは、若者自身の愛好・熱中度を表すというより、企業のマーケティングに関わる人など、世の中に対する影響力をもった誰かがその基準をつくっていた点です。そのため若者の間でもどちらがより「ナウい」あるいは「トレンディだ」という、競争意識が働いていました。

一般化するオタクの消費文化

1990年代後半になると、「萌え」という言葉が使われるようになりました。「萌え」という感覚は、その人自身が「かわいい」「良い」「愛でたい」という気持ちになったときに引き起こされます。そのため「ナウい」「トレンディ」のような誰かが決めた基準がなく、「社会」や「流行」から切り離されている点が特徴です。また、1980年代から、ある対象に対して極端にお金や時間を使って消費する「オタク文化」がさまざまに取り沙汰されるようになりますが、1990年代にはオタクとそれ以外の人の消費スタイルの境界線がなくなり、マニアック且つ高度に細分化された消費行動が一般化します。

「推し」がもつ可能性

また「萌え」には「自分だけが満足すれば他者の評価は気にしない」という「他者性の欠如」という特徴もあります。そこから20年後に生まれた「推し」は、「ナウい」「トレンディ」のような競争意識は見られませんが、「萌え」のように自分だけで完結することもなく、好きなことに熱中する自分の行動を「ゆるく」世間一般に承認されたいという欲求が見てとれます。こうした消費文化の変化は、若者文化の社会学における重要な研究テーマです。研究では「推し」という消費スタイルが出現した背景や、現代の行き過ぎたグローバル経済の中で、「推し」がどのような意味をもつのかについて、社会学のさまざまな手法を用いて解き明かします。

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宮崎公立大学 人文学部 国際文化学科 メディア・コミュニケーション専攻 准教授 梅津 顕一郎 先生

宮崎公立大学 人文学部 国際文化学科 メディア・コミュニケーション専攻 准教授 梅津 顕一郎 先生

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若者文化の社会学

メッセージ

現代の若者には、自分の趣味を楽しむためには「推し活」が唯一のスタイルだと思っている人もいますが、今ある状況は今だけで成り立っているのではない、ということを知ってほしいです。例えば「推し活」が生まれるまでにも、マニア、オタク、ファンとさまざまに呼ばれてきた人たちがつくった消費文化の歴史があるのです。こうしたスタイルの変遷があったことを知り、またそのことには何か大きな意味があるのかもしれない、といった視点をもってみましょう。

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