深部体温を予測せよ 熱中症のリスク評価に向けて

深部体温を予測せよ 熱中症のリスク評価に向けて

生理指標を使って熱中症リスクを評価

暑くなると熱中症が増えます。熱中症とは高温多湿により体温が上がり、体の水分と塩分のバランスが崩れてけいれん、頭痛、意識障害などの症状を起こす状態をいいます。重症になると命を落とすこともあり、熱中症により亡くなる人の数は減っていません。こうした状況の改善をめざして、心拍数や心臓の拍動のリズムなどの生理指標を用いて熱中症のリスクを評価する研究が進められています。

屋外で深部体温を予測する指標

実験は温度と湿度をコントロールできる「人工気候室」と呼ばれる部屋で行われます。模擬的に暑熱環境を作った室内で、被験者は心電図をつけて運動をします。さらにお尻から体温計を挿入して深部体温を測定し、データ化します。また、運動の前後に精密体重計で体重を測ることで発汗量を推定します。深部体温は熱中症のリスクを評価するのに最も確かな指標だといわれています。ただ、これを屋外で測定することはできませんから、屋外でも測れる心電図などの測定値から科学的に深部体温を予測する指標を見つけることができれば、熱中症のリスクが評価できます。将来的には、日常的に身につけられるウェアラブルデバイスによって、これらの指標から熱中症のリスクを捉え、通知できるシステムも検討されています。

作業管理とデバイスの通知でリスク軽減

深部体温と作業管理との関連からも熱中症のリスク評価が研究されています。例えば小型ファンがついた空調服のファンを回した時と回していない時で作業後に深部体温を測定した結果、体温の上昇具合は変わりませんでしたが、休憩後はファンを回した人のほうが体温の下降が早いことがわかりました。この結果から、熱中症の予防には十分な休憩の確保など正しい作業管理を行うことが重要だといえます。さらに「水分を補給しましょう」などと通知してくれるウェアラブルデバイスのシステムができれば、より熱中症のリスク軽減につながると考えられます。

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産業医科大学 産業保健学部 産業衛生科学科 講師 山田 晋平 先生

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心理生理学、労働生理学

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メッセージ

最近は、日常的に人の生理状態を測る機器やシステムが増えてきていますが、中にはきちんとした根拠がないものもあります。人の生理状態を科学的に測定し評価する研究を行うことは、多くの人々の健康に貢献できると考えています。世の中にあるさまざまな情報やシステムについて正しいかどうかを見極める方法のひとつに、統計が使われることがあります。統計の基礎を知っておくことは、正しい情報を見極める力につながります。高校の授業でも統計学はあるので、ぜひ今のうちに知識を身につけてください。

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 産業医科大学は、産業医学の振興と、産業医及び産業保健従事者の養成を目的として1978年福岡県北九州市に創設されました。医学部医学科、産業保健学部看護学科・産業衛生科学科の2学部3学科で構成される医科大学です。本学は、医学一般についての教育・研究・診療を基に、産業医学及び産業保健に関する特色ある教育・研究を実施し、優れた人材を数多く社会に排出するとともに、関連分野に関する研究を進め、また地域医療において医療に関する中核的役割を担っています。