推しが座った椅子に座ってみる SNS時代の観光体験がもつ可能性

作品と結びついた新しい観光の形
最近増えているのが、ドラマやアニメなどの作品の舞台となった場所を訪れるコンテンツ・ツーリズム、いわゆる聖地巡礼です。例えば、大ヒットドラマ『silent』のロケ地となったカフェには多くのファンが訪れました。そこを訪れた人々は俳優が座った席に座ったり、俳優のアクリルスタンドを置いて写真におさめたりして現実と作品世界を結びつけ、疑似体験を楽しんでいます。それをSNSにアップして、ファン同士で共有するのも旅の楽しみの一部で、通常の観光とは違う満足感や楽しさがあります。
観光地が抱える課題と可能性
こうした場所は新たな観光客が増える一方、受け皿の問題を無視できません。実写作品のロケ地となるような場所はそれまで観光客がたくさん来るところではないケースも多く、急に人が押し寄せると対応できない場合が多いのです。
しかし、新たな観光資源としてうまく活用している例もあります。愛媛県にある下灘駅はジブリの世界のようだとSNSで話題になり、国内外から観光客が殺到しました。しかしこの駅は交通の便も悪い無人駅で、かつては周辺に観光地として楽しめるものは何もありませんでした。人気の理由を知った地元の人々は、下灘駅を観光地として大切にしようと考えました。現在は駅周辺はきれいに整えられ、カフェスタンドや土産店もできて、観光地として整備されています。
観光地のライフサイクル
「観光地ライフサイクル論」という考え方があります。これは、注目を浴びてから観光客が来なくなるまでを1つのサイクルとしてとらえるものです。例えば大河ドラマや朝ドラの舞台は、番組が終わると観光客が減っていく傾向があります。一方で、アニメ『ガールズ&パンツァー』の舞台となった茨城県大洗町のように聖地として成功し、作品との関係を徐々に薄めながらも地域の魅力で観光客を引きつけ続けている例もあります。作品の舞台となった場所はいずれ観光客が減っていくことを想定し、将来を見据えた観光開発をする必要があるでしょう。
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跡見学園女子大学観光コミュニティ学部 観光デザイン学科 教授中村 仁 先生
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