フィリピン華僑社会を生みだす女性たち
中国系フィリピン人の圧倒的なプレゼンス
東南アジアのマレーシアやシンガポールで、華人・華僑(中国系の人々)が多いことはよく知られています。しかし同じ東南アジアでも、フィリピンに暮らす中国系の人々は人口のわずか1.6%に過ぎません。そのため、フィリピンにとって中国系の人々は大した役割を果たしていないと考えられてきました。ところが実際には、フィリピンの経済活動の約90%に関与し、多大な影響力を持っているのです。
信仰の世界と女性の「生」
中国系フィリピン人の中で、特に存在が見えにくいのが女性の存在です。男性は姓の継承や商業を通して記録などが残っていますが、女性に関する記録はほとんどありません。そこで彼女たちの姿に迫ろうとフィールドワークを行ったところ、彼女たち独自の世界が見えてきました。男性が商業という現実に生きる一方で、女性たちは廟やお寺での信仰の世界から男性たちの現実に意味を与えていたのです。商売繁盛や家内円満を支え、中国人としてのアイデンティティや生き方を生み出しているのは女性たちだというわけです。彼女たちの多くが自分の意思に関係なく父親や夫の商売の都合で移民してきました。移住を自らの人生のなかに位置づけるために信仰の場で生み出される「ことば」を使ったのです。
「中国文化」をめぐる融合とせめぎあい
フィリピンの中国系社会は、年老いた未婚の女性が多いことも特徴です。両親が娘の結婚相手を厳しく選別するため、親の訓えに従順な娘たちのなかには、結婚できなくなる人がいるのです。「親の訓えに従順」という意味で、彼女たちは自らを「中国文化」の体現者として意識しています。これに対して中国系の男性は、比較的自由にフィリピン人の女性と結婚することができました。中国系の男性と結婚したフィリピン人の女性たちは、男子の割礼のように中国系社会に新たな要素をもたらしました。中国系社会の文化の斬新さは、こうした「中国文化」をめぐる融合とせめぎあいのなかにあるのです。
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