希望する暮らし方を選べない日本の障害者の現状

希望する暮らし方を選べない日本の障害者の現状

主体的な暮らしの場としての障害者グループホーム

日本では1960年代頃からの入所施設や精神科病床の増加に伴い、障害者の長期の入所や入院が常態化していました。しかし、誰もが地域社会での当たり前の暮らしを保障されるべきだという考えのもと、政府は障害者が入所施設ではなく地域での生活に移行できるように、新たな事業を開始しました。それが、平成元年に国の制度として始まった障害者グループホームでした。障害者グループホームは地域の普通の住宅で、日常生活に支援が必要な人が少人数で生活する場です。障害があっても自分らしく主体的に暮らしていくことを目的としてつくられました。

障害者は希望する暮らし方を選べない実態

現在、入所施設からグループホームに移り住む人の数は以前よりも減っています。グループホームで暮らす人は15万人に達していますが、比較的障害の軽い人が多く、入所施設には障害の重い人や高齢になった人が増えています。一人暮らしや結婚など、一人ひとりの希望に沿った地域での生活支援は充分ではありません。つまり、自分の望む暮らし方を選べるようにはなっていません。グループホームが、入所施設の代わりになっていると心配する声もあります。また、グループホーム事業の枠の中で支援が閉じてしまいやすく、本人の希望に応じて一人暮らしなどに移行することは簡単ではないという課題があります。

共生社会を創る土台としての教育

2022年9月に国連は日本政府に対して、障害者権利条約をめぐって、精神科への強制入院廃止や分離教育の中止などを含む政策の改善を勧告しました。これは、障害者がグループホームを含めた限定した場で長期間を過ごすのではなく、地域で自分らしい暮らしができる政策への転換を促すものです。
現在の特別支援教育は、障害者を分離し、障害がある人は特別な場所にいるべきだという考えを植え付けかねないものです。共に暮らせる社会をつくるためには、障害のある子どももない子どもも共に学ぶ「インクルーシブ教育」のさらなる推進が求められます。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 社会福祉学科 准教授 在原 理恵 先生

神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 社会福祉学科 准教授 在原 理恵 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

保健福祉学、社会福祉学

先生が目指すSDGs

メッセージ

人は自分の生まれ育った環境から強く影響を受け、価値観を形成し、その安定の中にとどまりがちです。そこを跳び越えるような出会いがあると、大きな成長につながります。思いがけない出会いが自分の価値観を揺るがし、人生を動かすこともあります。私にとっては、それは障害のある方達との出会いでした。進路や大学の選択で迷っている時は、自分の枠から一歩踏み出せて、ワクワクする出会いがありそうなところを選んでみましょう。そして、いつでも自分を大切にして、心身ともに健やかに、笑顔でいられるように過ごしてほしいです。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

神奈川県立保健福祉大学に関心を持ったあなたは

神奈川県立保健福祉大学では「ヒューマンサービス」を使命とし、人材育成、教育・研究活動、地域貢献活動を行っています。
ヒューマンサービスとは、一人ひとり人格を持った大切な人として生かされ、生きがいを持ち、その人らしく生きられるように、他の人を支援していく理念を言います。
すべての人がその人らしく生きていくことができる未来のために、私たちはすべての人に真に向き合い支えることのできる、心と知識・技能を兼ね備える人を育み、新時代にふさわしい保健・医療・福祉の未来を切り拓きます。