ノーマライゼーションの社会をめざした昭和の先駆者
ノーマライゼーションの実現
SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」を達成するには、障害のある人もない人も互いに支え合って地域で生き生きと明るく豊かに暮らしていける社会、「ノーマライゼーション」の実現が求められます。しかし、それはここ30年ほどの新しい動きです。歴史を振り返ると、昭和戦前期にノーマライゼーションの先駆的な活動をした杉田直樹という人がいました。
非行・不良少年中の障害児問題への着目
杉田直樹は、1910年代にドイツ・アメリカへ留学した精神医学者です。ドイツから帰国後、現地で見聞した、医師が関与する「感化院」を日本でも実現したいと述べています。感化院とは、非行の子どもや保護者のいない子どもを保護して教育するための福祉施設です。犯罪や非行問題を抱える子どもの中には精神的なケアが必要な子どもも存在するため、罰だけでは更生が期待できず、教育の場が必要であることをドイツで学んできたのです。
一方で杉田は、1920年代前半に文部省の委託により貧民街の子どもの調査に加わり、「社会の不備も多々あるが、貧民街の人々は貧困からはい上がる意欲も能力もない」という自己責任論的な意見を述べたこともありました。しかし、1930年代に名古屋帝大へ異動し、児童鑑別所や少年審判所の子どもたちに直接会って診断をするようになると、「非行問題の要因は、この子らを排除する社会の問題である」と捉えるようになりました。
個人の問題から社会の問題へ
当時は、児童鑑別所などを出た子どもを受け入れる施設がほとんどなく、感化院(少年教護院)も、手のかかる子どもの受け入れを拒否することがありました。行政に掛け合っても新たな施設の設立は見込めないことから、杉田は私財を投じて「八事少年寮」という非行障害児のための治療教育施設を開設しました。どんな子どもであっても、専門の教員や医師が努力すれば、教育の可能性はあるという確信を持って取り組んだのです。杉田の功績により、日本の障害者教育は大きな一歩を踏み出したと言えるでしょう。
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和歌山大学 教育学部 特別支援教育 教授 山﨑 由可里 先生
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