障害者の働き方と法制度を考える

障害者の働き方と法制度を考える

多様な働く場の確保と課題

障害者には、通常の企業での就労だけでなく、福祉的支援を受けながら働く方法(福祉的就労)など、多様な働き方が整備されています。障害の状況や障害者の能力・希望等に応じて多様な働く場があることは重要です。しかし、福祉的就労の中には最低賃金法等の労働法の適用のない「就労継続支援B型」という働き方があり、工賃が低いことや労働災害への補償がないことが問題となっています。これは労働基準法上の「労働者」の定義のあり方とも密接に関わっています。福祉的就労の社会保障的な意義を尊重しつつ、就労条件等に関する課題をどう克服するかが問われています。

障害者差別禁止と合理的配慮

障害者の権利に関しては、2006年に国連で採択された「障害者権利条約」がターニングポイントになりました。条約は、障害者差別禁止と障害者に対する合理的配慮の提供義務に関する法制度を導入するよう締約国に求めるものです。この条約を批准するため、日本でも、障害者基本法と障害者雇用促進法が改正され、障害者差別解消法が制定されました。これによって、雇用分野について、従来の障害者雇用義務制度(一定率以上の障害者雇用を会社に義務づける制度)に加え、差別禁止と合理的配慮の提供義務が法律に明記されることとなりました(2016年施行)。合理的配慮とは、障害者の能力発揮の支障となっている事情を改善するための措置であり、障害のない人を前提に作られている社会を、障害者の状況に合わせて変更・調整しようとするものです。このような新たな制度を雇用義務制度とどのように融合させるかが研究されています。

実態・実務を踏まえた提言

法律の研究スタイルは様々ですが、法制度が現場にどのような影響を与えているのかという実態や実務を知ることも重要で、特に障害者雇用について重要性は高いといえます。そのため、社会調査の専門家とともに、障害者が働く会社や福祉的就労事業所へアンケートやヒアリングを行い、その結果を踏まえた、法制度のあり方について提言が行われています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

福島大学 行政政策学類  教授 長谷川 珠子 先生

福島大学 行政政策学類 教授 長谷川 珠子 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

法学、労働法、社会保障

先生が目指すSDGs

メッセージ

もしあなたが、現在の日本社会には「あまり問題がない」と考えているなら、自分の身の周りからもっと広く社会に関心を向け、いろいろなことに興味を持ってほしいです。ニュースに耳を傾けるだけで、格差社会が進行していることや、男女格差が大きくジェンダーギャップ指数が低いこと、生活保護受給者の生活の実態、障害者が直面している問題をはじめ、さまざまな社会課題があることがわかるはずです。また、問題解決の方法を考える際に、個人の努力だけではなく、法律や制度にも目を向け、問題点や改善案を考えてみてください。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

福島大学に関心を持ったあなたは

「新生福島大学宣言」で明らかにした、「福島大学の理念」は、(1)自由・自治・自立の精神の尊重、(2)教育重視の人材育成大学、(3)文理融合の教育・研究の推進、(4)グローバルに考え地域とともに歩む、を掲げています。特に、学生教育を重視し、全学年にわたる少人数教育、共通領域科目及び専門領域科目とともに、キャリア形成論などのキャリア創造科目を含む自己デザイン領域科目を新たに設け、さらに文理融合教育を進めています。